魔石の時代
第二章
魔法使い達の狂騒劇2
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「貴方には食事を楽しもうっていう考えがないの?」
遥か昔、とある料理人に言われた事があった。
それは人里から離れた館で魔法の研究に没頭していた頃だったと記憶している。人里に下りる事は稀で、それこそ限られた伝手で魔物の討伐――あるいは、救済の依頼を受けでもしない限り、館から出る事さえ稀だ。当然、食料も保存が利くような代物ばかりで、腹が減ればそれらを適当に齧るという有様だった。
優れた料理人である彼女には、どうやらそれがお気に召さなかったようだ。その日から、徹底して料理を叩き込まれた。その甲斐あって、彼女が館から旅立っていく頃には彼女のお墨付きをもらえる程度には料理を身につける事が出来たが。
結局、彼女が館からいなくなってからも――いや、それから数十年の月日が経ち、彼女がこの世からいなくなってからも、料理を作る事は止めなかった。彼女がいなくなってからも、時々は同居人がいた事もあったし……何より、それが彼女への手向けだと思った。もちろん、彼女の作る料理には遠く及ばないとしても。
それから、忘れるほどの年月が過ぎて。
お前には食事を楽しもうという考えはないのか? ――今の自分にそんな事を言わせたのは、相棒――御神美沙斗だった。復讐心に取りつかれているせいなのか何なのか、この女は当時とにかく食事に無頓着だった。安いからと言って、狙い澄ましたかのようにまずい缶詰ばかり買ってくる。それでも、半年ほどは我慢した。いや、最初の二ヶ月程はそれどころではなかったから、実際に我慢したのは精々数ヶ月程度か。どちらでもいいが――いずれにせよ我慢の限界を迎えた。事ここに至って、ようやく彼女の嘆きを理解する事が出来たらしい。……もっとも、この時の自分は彼女の事もろくに覚えていなかったが。
ともあれ、そんな環境に耐えかね、この世界で初めて料理を作った結果、言われたのがこんな言葉だった。
「味噌汁が飲みたい。あと、鮭の塩焼きと肉じゃが」
この女、どうしてくれよう。こめかみを引き攣らせる自分を他所に、彼女は他にもいくつかの料理名を挙げた。それらは、彼女の故郷の郷土料理らしい。この身体に残された記憶から、それくらいは理解できる。だが、作り方となれば話は別だ。素直に告げると、相棒は鷹揚に頷いて見せた。
「心配するな。私が教えてやろう」
言うが早いか、相棒は足取りも軽く材料を買いに行き――尋常ではない早さで調味料込みで一通り揃えて帰ってきた。さらには、実に手際よく調理してみせる。訊けば料理は得意だという。なら、今まで何故作らなかった?――今までの過酷な食事事情を思い出すにつけ実に腹立たしい。ああ、本当にこの女一体どうしてくれよう。
「美味しいよ、光」
結局、どうする事も出来なかったが。嬉々として皿を空にしていく相棒を見ながら、ため息をつく。いや、
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