A's編
第三十二話 後
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イトちゃんの変化は劇的だった。今までは、微動だにせず膝を抱えて蹲っていただけのフェイトちゃんだったが、アリシアちゃんの言葉を聞いて、まるで冷凍庫に薄着で放り出されたようにガタガタガタと身体を震わせていた。
「………ち、違う………そ、そんなことない」
ようやく否定するようなことを口にしたが、その声はか細い。ようやく否定できたというような感じだ。
「そんなことあるでしょう? だって、気付いていないなら、理解していないなら翔子母さんをプレシア母さんと間違ったりしないもの」
あ、という形でようやく僕は気付いた。
確かにアリシアちゃんの言うとおり、もしもアリシアちゃんがフェイトちゃんの望む完璧なアリシアちゃんなら、母さんを『母さん』と呼ぶことはないのだ。なぜなら、フェイトちゃんにとって母さんとはプレシアさんだけだから。だが、それを何かの手違いで母さんをプレシアさんと間違えた。それは、きっと、アリシアちゃんが言うとおり、フェイトちゃん自身が心のどこかで気付いていたからだろう。
―――もはや完全にプレシアさんに認められることはないのだ、と。
だから、プレシアさんの代わりに母さんを―――母親としての誰かを探した。その結果ではないだろうか。
「それに。仮に私が認められたとしても、それはあなたが認められたわけじゃないよ。フェイトが作り出したアリシアが認められただけ。なら―――」
それは優しい口調だった。今までのような攻め立てるような口調ではなく、詰問するような口調ではなく、ただ優しい声。その声でアリシアちゃんは残酷なことを口にする。
「ねえ、フェイト。あなたはどこにいるの?」
ああ、それは、それはきっと一番言ってはいけない事実だった。
確かにアリシアちゃんが認められた場合、それはフェイトちゃん自身が認められたわけではない。ただ、フェイトちゃんが作り出した影が認められただけだ。ならば、フェイトちゃんはいつまでたっても認められたわけではなく、誰からも意識されることはなく、ただアリシアちゃんの影に沈むだけ。
それは果たして生きていると言えるのだろうか。
あまりに意地の悪い一言。プレシアさんに認められるためにはフェイトちゃんではなくアリシアちゃんである必要があり、だが、一番認められたいのはフェイトちゃんなのだ。つまり、彼女はプレシアさんを求める限り、認められることはない。
気付いていなかったわけではないのだろう。気付かないふりをしていただけなのだろう。だから、フェイトちゃんはガタガタガタと震えている。認めたくない事実を突きつけられて、その小さな身体で受け止めるにはあまりに大きな恐怖を相手にして。
「そう、どこにもねなかったんだよ。フェイトの居場所なんて。たった一つを除い
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