A's編
第三十二話 後
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だが、それでも彼女は笑っていた。
「うん、でもいいんだよ。今はまだ大丈夫かもしれないけど、もしも、何かの拍子で均衡が崩れちゃったら、フェイト自身が壊れちゃうかもしれないからね」
アリシアちゃんの説明によれば、フェイトちゃんはもともと人格の境界が薄いそうだ。アリシアちゃんが、ゴミだとか、贋物とかそういう言葉に反応するのがフェイトちゃんと少なからずつながっている証拠だという。だから、もしも、今後、何かの拍子にその境界線が壊れて二つの人格がまじりあうようなことになれば、今度こそ本当にフェイトちゃん自身が壊れてしまう。生きた人形になる可能性があるのだという。
「どこかで誰かがやらなくちゃいけなかったことだよ。だから、気にしないで。どうせ、お兄ちゃんのことだから、見捨てることなんてできないでしょう」
どうやら、たった半年程度の兄妹生活ではあるのだが、僕の性格は見抜かれてしまっていたようである。
確かにアリシアちゃんが言うとおりである。傷ついたフェイトちゃんをこのまま放置して何食わぬ顔で闇の書の外へと出ることはできない。それは、僕がこの世界に生まれ変わってきて、培ってきた世話焼きとしての性分かもしれない。傷ついた女の子をそのままにしておくことなんてできない。この先の危険性を知っていればなおのことだ。おそらく、アリシアちゃんが想定している事態に陥った時、ここで行動しなかったことを悔いるだろう。
「フェイトちゃん」
だから、僕は片膝をついてフェイトちゃんと目線を合わせながら、彼女の名前を呼んだ。目線を合わせたのは一人で見下すように話すのが僕が好きではないからだ。フェイトちゃんも立ち上がってくれるなら話は別だが、それが不可能だとわかっている以上、僕が合わせるしかないだろう。
それから僕は何度か彼女の名前を呼んだ。
「フェイトちゃん、聞こえる? フェイトちゃん」
最初は、虚空を見ているだけのような空ろな視線だったが、やがて、僕のことを認識してくれたのか、あまりはっきりとした焦点は結んでくれなかったが、それでもゆっくりと口を開いた。
「…………だれ?」
しばらく待ってようやく開いてくれた口から洩れた言葉はそれだけだった。だが、今更ながらようやく僕と彼女―――フェイトちゃんは初対面であることに気付いた。まったく容姿が同じアリシアちゃんが僕のことを知っているものだから勘違いしてしまったが。
ああ、僕はどうやら礼儀からして間違っていたようだ。お話をするのであれば、まず名乗るのが礼儀だろう。
「ごめんね、僕から名乗るべきだったよ。僕は、蔵元翔太。外の世界では、君のお兄さんだよ」
「………おにいちゃん?」
そうだよ、と僕は頷く。その反応に彼女は少しだけ考え込むようにぼうっと
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