A's編
第三十二話 後
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なるほど、と僕はアリシアちゃんの言葉を受けて納得する。納得できるというよりもなんとなく理解できた、というほうが正しいだろうか。僕には精神やら心に関する正確な知識はない。せいぜい、聞きかじった程度の知識である。だが、それでも、予想はできる。
つまり、フェイトちゃんはもともと人格的に分裂しやすい下地ができていたのだろう。本来、望まれたアリシアちゃんとしての人格。だが、それをプレシアさんが何らかの要因で消した。もっとも、まるでPCのハードディスクからデータを消すように記憶を簡単に消せないと思う。確かに魔法は僕が想像できないこともできるが、一方で人間の脳というのも完全に理解できるものではない。それは、プレシアさんが記憶の転写に失敗したことからも明らかだ。もしも、完全に解析できているなら、こんな悲劇は起きなかったのだから。
よって、もともとフェイトちゃんの中には複数の人格が生まれるだけの下地があったのだと思う。最初のアリシアちゃんの人格。それから、アリシアちゃんであることを忘れたフェイトちゃんとしての人格。そして、今回は、大好きな母親から拒絶されたフェイトちゃんが自己逃避のために求めた人格―――僕の妹としてのアリシアちゃんである。
「アリシアちゃんのことはわかったよ。でも………僕はどうしたらいいのかな?」
そう、確かに状況は理解した。
つまり、フェイトちゃんの時間はあの時から止まっているのだろう。母親―――プレシアさんから拒絶された時から。母親からゴミと贋物と言われた彼女は、別の人格を作り自分は殻に閉じこもり、これ以上、傷つかないように自分の心の奥深くに閉じこもった。
もしも、こうして闇の書に閉じ込められなければ彼女が表に出てくることは一生なく、そのままアリシアちゃんとして生涯を終えたのかもしれない。
だが、幸か不幸か、アリシアちゃん―――フェイトちゃんは今回の事件に巻き込まれ、こうして僕の前の姿を見せることになってしまった。
自分の殻に閉じこもることが悪いことだとは思わない。自衛手段の一つなのだから。だが、こうして救いの手を差し伸べられる機会があるのであれば、迷いなく差し出したいと僕は思う。だけど、今回に限って、それは―――
「お兄ちゃんが望むようにしたらいいと思うよ」
きっと、その結果がわかっていながら、アリシアちゃんは笑いながら言う。
「いいの? だって、フェイトちゃんが立ち直るってことは………」
「うん、たぶん、私はフェイトに統合されちゃうだろうね」
そう、体は一つで心が二つあった場合、どうしても主人格であるフェイトちゃんのほうが優先されてしまうだろう。つまり、この状況を壊すということはアリシアちゃんを消してしまうということに他ならないだろうから。
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