A's編
第三十二話 後
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僕は彼女の名前を呼んだだけだ。それでも、彼女は心底安心したように安堵の息を吐いた。
「よかった………今度は本物のショウくんだ」
僕の髪に顔をうずめるようにしながら、よくわからないことを口にする。髪の毛を通して伝わる彼女からの吐息が少しだけくすぐったい。それと同時に鼻と口が半ばふさがれていたため、息苦しくもなっていた。
―――離してくれないか、と僕がふさがれながらも懸命に訴えかけようとしたのだが、その前に僕の手を握ったままだった彼女が動いていた。
「お兄ちゃんから離れて」
ぶん、という音を残して振るわれる戦斧。その瞬間になのはちゃんが手を離し、僕は息苦しさから解放された。解放されたのは確かにいいことなんだろうが、お兄ちゃんとしては妹が暴力的手段に訴えるのはあまり好ましくない。
注意しようとして改めて状況を見てみると、僕たちは海から突き出した岩の上に立っているのだが、僕の少し先で少しだけ距離を置いて対峙するなのはちゃん(大人バージョン)とフェイトちゃん。大人と子供の喧嘩のようにも見えるけど、二人の間に、険しく火花が散っているのは僕でもわかる。
さて、どうしてこんな状況になったのだろうか。僕としては闇の書から脱出できたことを喜ぶだけでいいと思っていたのだが。そもそも、二人がどうして火花を散らしているのかわからないため、止めようがないのも事実である。
フェイトちゃんからの言葉から察するになのはちゃんが僕に抱き着いたのが原因のような気がするが、それが気に食わない原因がよくわからない。なのはちゃんが僕に近づいて何かするわけではないし。なのはちゃんが怒っている原因は、おそらく水を差されたからだろうし。なら、悪いのはフェイトちゃんということになるのだろうか。
そんな風に頭を悩ませている最中に頭上から声が降りてきた。
「再会に水を差すようで悪いが、緊急事態なので、許してもらおうか」
その場の全員が空を見上げる。曇り空が広がる空の中に二点、黒い執務官としてのバリアジャケットと、彼の部族を示すバリアジャケットが風景の中の異色の存在として目立っていた。
「クロノさん………」
屋上で襲われた時のことを思い出して、不審の目を向けてしまったのは仕方のないことだろう。しかし、それはクロノさんも承知の上なのか、ある一定の距離で立ち止まり、頭を深々と下げた。
「すまなかった。どうやら身内が失礼を働いてしまったようだ。君を襲ったのは僕じゃない」
状況がよくわからなかった。僕が見た限りではあれば、クロノさんとしか思えなかったのだが、彼の言葉を信じるのならば、あれはクロノさんではなかったようだ。本来であれば、こんな子供にも深々と頭を下げてきたクロノさんを信じたいのだが、直接襲われた
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