A's編
第三十二話 後
[13/16]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
たちの会話を聞いているうちに僕の中にある推測が首をもたげた。しかし、それを確認することは無粋だろう。それが正解だろうが、不正解だろうが、この場における彼女たちの邂逅は一瞬なのだ。僕のくだらない好奇心でこの雰囲気を壊すものでない。
片方は笑いながら泣いていた。もう片方はうつむいて泣いていた。本当にこの時間が愛おしくて、悲しい時間だというように。両者の表情は対照的だった。だが、それでも、おそらく二人の心情は同じ類のものだろう。
「うん、悲しいね」
「だからこそ、この出会いに感謝しようよ。そして、私のことを想ってくれるなら………行って! フェイト!」
最後はほとんど叫んでいるようなものだった。だが、それはフェイトちゃんの胸を打ったのだろう。彼女の大きな瞳から大粒の涙が流れていた。だが、それも少しの間のことで、すぐに彼女は涙をぬぐうとその下から向日葵が咲いたような明るい笑顔を浮かべていた。
「はい、行ってきます」
それが崩壊の始まりだったのだろう。先ほどまで暗闇で包まれていた空間に光という形で罅が入る。それはまるで、卵の内部から無理やり壊されるのを見ているようなそんな気分だった。
「時間がないよ、フェイト!」
「うん………バルディッシュ、行ける?」
―――Yes、Sir!
その言葉とともに一瞬、彼女が片手に握るバルディッシュが光ったかと思うと、空中にばさっ! という効果音を残して広がるマント。同時に光に包まれるフェイトちゃんの聖祥大付属の制服。やがて、上から落ちてきたマントがフェイトちゃんの肩に装着され、光が収まるころには、僕が初めてフェイトちゃんと出会ったときと同じく黒いレオタードのようなものに包まれていた。
「一緒に行ってくれるんだよね?」
僕が何をしていいのかわからず、呆然としているとおずおずと言った様子で問いかけてくるフェイトちゃん。まだ、アリシアちゃん以外には慣れていないのかもしれない。だから、僕は彼女を安心させるように握ったままの手を少し強めに握って、大きくうなずいた。
「もちろん、僕は君のお兄ちゃんだからね」
その様子を見ていたアリシアちゃんは満足そうにうなずき、僕が握った手から少しでも安心を受け取ってくれたのだろうフェイトちゃんも安心したようにはにかみながら笑うと次の瞬間には真剣な顔をして正面を見ていた。
「行きますっ!」
その声と同時に、僕たちは何もないはずの暗闇の空間を蹴りだし、割れ目へと向かって飛び出す。しかし、その割れ目もまだ人が通れるには小さい。こじ開けるしか方法がないのだが、そのための手段は今―――彼女の手の中にある。
「バルディッシュ!」
―――Yes,Sir.
バチバチと電子が激しく音を立てる。黒い戦斧
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ