A's編
第三十二話 中
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りはなかったと胸を張って言える。だからこそ、彼女の信頼を得られないのが悲しい。
だが、嘘じゃない、と言った瞬間、彼女の瞳が、肩が揺れたような気がした。それは本当に些細なもの。気のせいかも、と思えるほど些細なものだった。彼女も動揺しているのだろうか。だとすれば、少しは希望の芽があるのかもしれない。なにより、もしも、彼女から、本当に信頼がなくなっているならば、彼女はここに出てくる必要もなかったのだ。
また、僕に別の役割を与えた蔵元翔太として別の夢の世界に送り込めばいいのだから。
だが、彼女はこうして僕の目の前に出てきている。それは、彼女の心の揺れを示しているのではないだろうか。だとすれば、僕ができることは言葉を交わして、彼女の信頼を得ることだけだ。
「信じられんわ……」
先ほどとは違って、どこか悲しみを帯びたつぶやきだった。
はたして、彼女は『信じられない』のか、『信じたくない』のか、あるいは、『信じた結果、また裏切られるのが怖い』のかは僕にはわからない。そういう考えに至る経緯は理解できても、彼女の本心はわからない。魔法は使えたとしても、心まで読むことはできないのだから。
このまま放っておけば人間不信になってもおかしくない彼女を助けたいとは思う。彼女とは約束したのだから。
『一人にはしない』と。
それは、彼女のそばに佇むことだけでは達成することはできない。そばにいるだけでは、それは単純に赤の他人が一人と一人でいるだけだ。それでは意味がない。彼女が一緒にいると感じられて、初めて僕は約束を果たすことができるのだ。
だが、残念ながら彼女の半ば人間不信になりかけている状況を覆す妙案などない。せいぜい、百と千の言葉を重ねて、共に行動して信頼を地道に得るぐらいしか考え付かない。どうするべきだろうか?
そんな風に僕の思考がループに入りかけた時、不意に口を開いた人物がいた。
僕でもなく、はやてちゃんでもない。その隣に立っていた闇の書だった。
「―――主、そこの少年は嘘を口にしておりませんよ。本心のようです」
僕と話した時と同じように抑揚のない口調で、淡々と事実を告げるように闇の書は口にした。
え? と一番驚いたような表情をしていたのは、僕ではなく今まで感情を映さない瞳で僕を見ていたはやてちゃんだった。驚くといった表情が見られた意味は僕にはわからない。それは果たして闇の書が僕の心を代弁したことに対する驚きなのか、あるいは、僕の言葉が本心だったことに対する驚きなのか。どちらにしても、彼女は信じられないようなものを見るような表情で闇の書を見つめていた。
「ほ、ほんまか?」
どこか震える声で確認するはやてちゃん。
無理もない。一度、信じようとして裏切
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