新たな絆は抑止の鎖
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り深く。
馬鹿げている、増長している、思い上がりも甚だしい……そうは思わなかった。
悠久の平穏など作れるかどうかも分からない……否、そんな“理想の世界”は作れないと自分は知っている。それでも目指して、作りたくなった。
現代とは違い、遥かに文明が劣る中でも精一杯に生きている人々の笑顔を見たから。
華琳の治める街でも貧しい区画は存在して、痩せ細った子供達がいたから。
テレビの中でしか知らない、苦しい世界がそこにあったから。
民は泣きながら言った。
『徐晃様、どうか……どうか戦乱の世を終わらせてください。息子を戦場に送りたく無いのです』
子供達は笑いながら言った。
『大きくなったら徐晃様みたいにたくさんの人の為に戦いたいんだ』
他者の願いを受けて、彼は人を殺す事無く、黒麒麟と同じようにこの世界を変えたいと願い始めていた。
孫の顔を見に来たぞ……と、祝福を上げられるように。
戦うなら大切な人を守る為だけにしろよ……と、きっぱりとそう言い切れるように。
だから彼は『間違っていない』黒麒麟を求めている。それが黒麒麟と共にあった“あの子”の為……彼女の涙から今の彼の想いは始まったから、黒麒麟と自分の想いを混ぜ合わせる。
ただ……そんな真実と本心を春蘭達に話せるかと言えば話せない。故に彼は状況を利用する事を決めた。
華琳の描いているモノは月から聞いて、一番効率がいいのは知っている。
あの日言葉を交わして、自身の知識を最大限に生かせるのは此処だ、とも感じた。
しかし絡み過ぎた数多の糸が、今の秋斗の全てを縛る。記憶が戻っていない事も含めて、である。
それらを話すだけで、後は相手の判断に委ねればいい。思考誘導のコツは、真実を含ませて相手に曲解させる事なのだから。
ふっと息を零し、秋斗はまた、酒を煽った。
「曹操殿が客分でいいと言ったからお前さん達からは聞けないわな。酒の席で喧嘩するのは嫌だし……止められても無いから言ってもいいか」
ゴクリと、三人は生唾を呑み込んだ。秋斗は春蘭を静かに見据える。
「劉備に仕えていた黒麒麟を否定している俺が、何故曹操殿に仕えないのか……なに、簡単な事だ。記憶が戻った時に俺が曹操殿を裏切る場合を考えて、だ」
「……なるほどなぁ」
「……それも、そうか」
「なんでそうなるんだ?」
訝しげに見つめるのは春蘭だけ。他の二人は納得がいったというように、うんうんと頷いていた。
「元譲、例えばだ。お前さんが記憶を失って劉備の所に居たとしよう」
「なに!? 記憶を失っても私は華琳様の元へ行くぞ!?」
「だから例えばだって! 黙って聞け!」
弾けるように食って掛かった春蘭に対して、秋斗は目の前に人差し指をピタリと立てた
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