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曇りの日に
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「ホテルお願いします」
「じゃああっちだね」
「はい」
 運転手さんが右手を指し示すと美輪はそれに頷いてきた。
「そっちです。じゃあお願いしますね」
「わかったよ。じゃああっちだね」
「ええ」
「あの、美輪ちゃん」
 ホテル街に行くように言った美輪に対してそっと声をかける。
「いいの、それで」
「だってこのままだと風邪引くわよ」 
 美輪はまたそれを言う。
「そんなことになったらお話にならないじゃない。折角のデートなのに」
「けど」
「いいのよ」
 美輪は少し憮然となって言葉を返した。
「私はいいんだから。女の子にここまで言わせないでよね」
「えっ」
「わかったわね」
「う、うん」
 話は押し切られてしまった。こうして強は美輪と一緒にホテルに向かうことになった。何がどうなるかわからない。不幸が転じて幸福になる。雨もまた然り。彼は今は雨に感謝したりしていなかったりであった。


曇りの日に   完


                 2006・12・26

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