暁 〜小説投稿サイト〜
ストライク・ザ・ブラッド 〜神なる名を持つ吸血鬼〜
観測者たちの宴篇
26.闇の侵蝕者たち
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 彼の爆発的なまでに放出される魔力が凝縮され、形を作っていく。
 漆黒の体毛。鋭く伸びた獣の爪。漆黒に浮かぶ真っ赤に燃える真紅の眼。
 その姿は間違いなくキーストーンゲートの屋上で緒河彩斗と逢崎友妃が戦っていた漆黒の獣だ。

「あなたは何者なの……?」

 紗矢華が目を見開きながら口にする。

「そんなことはどうでもいいだろ。テメェはトドメだけ考えろ」

 少年は狂気を含んだ笑みを浮かべる。
 それに応えるように漆黒の獣が咆哮する。咆哮は大地を割り、海面を荒ぶらせた。その威力は普通ではありえないものだった。まるでキーストーンゲートの時が遊びだったかのようだ。
 シュトラ・Dは咆哮に少しだけ後づさる。
 これがこの少年の言っていたチャンスなのだ。この少年が何者であっても今は目の前の脱獄囚を倒すことだ。

「──獅子の舞女たる高神の真射姫が讃え奉る」

 紗矢華が祝詞を唱える。
 太腿に装着したホルスターからダーツを引き抜く。監獄結界で大量に使いすぎて、それが最後の一本だ。本来なら矢の形にして使うのだが、今はこのままで十分だ。

「極光の炎駒、煌華の麒麟、其は天樂と轟雷を統べ、憤?をまといて妖霊冥鬼を射貫く者なり──!」

 紗矢華の魔弾は、敵を直接攻撃するものではない。魔術発動の触媒だ。鳴り鏑矢が放つ音が呪文となって、人間の魔術師には詠唱できない強大な魔術を生み出す。

「なに!?」

 自らの前で展開した巨大な魔法陣に、シュトラ・Dが瞠目した。
 その術式は彼はすでに知っている。灼熱の稲妻を打ち出して、無差別に周囲を破壊する凶悪な砲撃呪術。

「くっそおおおおおおおっ──!」

 シュトラ・Dの絶叫は、魔弾が生み出した巨大な爆風にかき消された。
 呪術砲撃の閃光が彼の肉体を焼き、天部の末裔は炎に包まれて海へと堕ちていく。

「上出来じゃねぇか、舞威媛」

 少年の声が爆発にかき消されていく。
 魔法陣が生み出した炎の余波を“煌華麟”でどうにか防ぐ。余波が完全に消え、前を見るとそこに少年の姿はなかった。
 まるで初めからそんな少年などいなかったかのようにだ。

 彼は一体なんだったのだろうか……




 地面には戦闘の後がくっきりと残されていた。それを見る限り、その戦闘の過酷さがわかった。
 紗矢華もどうやら監獄結界の脱獄囚と戦闘を行っていたようだ。しかし彼女はそこまで疲れているようには見えない。
 彼女と合流した彩斗たちはこの状況を確認する。

「“空隙の魔女”……本当に小さくなってたのね。実物は……なんて言うか……」

「予想以上に可愛かったですね」

 紗矢華の言葉を引き継いで、雪菜が感想を述べる。もともと人形めいた雰囲気の女性だった。


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