志乃「手をどかして」
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機材が『you tool』で公開されていた。志乃は動画をスタートさせ、その後は部屋に音声だけが響いた。
数分後、動画が終了し、志乃はそのページを閉じる。ゆっくりと俺の方に振り向き、「どうだった」と問うた。
「文章だけで想像してた時も凄いって思ったけど、実際に動く形で見てもっと凄いって思えた。そうか、これが動画作りに必要な物か」
先程俺が見ていたサイトに、こんな機材の事は一切書かれていなかった。それを志乃に聞いてみると、きょとんとした顔をした。
「私は、歌い手になるために必要な物を調べただけなんだけど」
「歌い手?」
「だって、表向きのメインは兄貴の歌声じゃん」
何だと。だって動画作りって……。
「兄貴、最初に自分で正解出しておいて忘れるとか単細胞の極み」
何やらもの凄いバカにされた事を言われている。俺が答えを出した。何か重要な事言ったっけか……。
「おお。言ってたわ。そうだ、俺が歌って志乃がピアノ。それの動画作りだった」
今まで動画作りという単語に捕らわれ過ぎて完全に頭から離れていた。いかん。これだと俺が課題曲をマスターしても意味が無い事になっちまう。これは、単細胞の極みと言われても仕方ない気がした。
そこで、俺は志乃の発言に気になるところを発見し、それについて聞いてみた。
「ところで、裏のメインって何なんだ?」
「ふふっ」
珍しく志乃が純粋な笑みを浮かべる。そして、一気にドヤ顔をして言い放つ。
「もちろん、私のピアノの事だけど?」
その時の志乃は、嫌味一つ無い、ちょっと嬉しそうな笑みを浮かべていた。なんか、こんな笑顔みたの久しぶりだな。
その後、俺と志乃は機材について検討し合い、意見をまとめた結果、赤が基調のスターターセットとオプションのマイクスタンド、ポップガードを通販で買う事になった。全額俺が支払い、という鬼畜は無く、俺と志乃の割り勘になった。
しかし、マイクスタンドを買う分の金が俺には足りず、それだけ志乃が全額負担という事になってしまった。
「兄貴はやっぱりバイトするべきだと思う」
「本当にごめん。この借りは必ず返すから」
機材が届くまで一週間。よし、それまでにもっと練習しておかなくちゃな。
できれば、日常生活もこのまま充実していてほしい。そう切に願いながら、俺は志乃との話し合いをお開きにした。
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