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万華鏡
第八十二話 近付く卒業その七

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「夏にラクダのシャツ着て寝られないでしょ」
「確かにね、それは」
 琴乃も自分がそうしてみればどうかと想像してみた、その結果とても無理だと判断してこう答えたのである。
「無理よ」
「そうでしょ、幾ら何でもね」
「夏は涼しくないと寝られないわ」
「睡眠も必要だから」
「それでよね」
「そう、だから適度よ」
 そうあるべきだというのだ。
「熱過ぎず冷え過ぎずよ」
「そういうことね」
「健康管理はそういうことよ」
 まさにというのだ。
「それと花粉症も」
「それもよね」
「そう、管理しっかりとね」
「わかったわ、もうすぐだしね」
「若し花粉症になったら」 
 琴乃は今は花粉症ではない、それで母もとりあえずは大丈夫という前提で話したのだ。そしてそのうえでだった。
 娘である琴乃にだ、こうも言ったのだった。
「飲むのよ」
「わかったわ、じゃあね」
「そういうことでね」
 健康管理、三月のそれも話したのだった。そうして。
 琴乃は実際に健康管理をしっかりとした、とりあえず今のところ花粉症の心配はなかった。しかしクラスにはもうだった。
 マスクをしている娘もいた、琴乃はその娘に尋ねた。
「やっぱり」
「そう、実は私ね」
 クラスメイトの娘は困っている顔でこう言ったのだった。
「花粉症なのよ」
「それでなのね」
「もうマスクしてるの」
 そうだというのだ。
「間違っても口裂け女じゃないから」
「また懐かしいの出してきたわね」
「いやあ、よく言われるから」
「口裂け女って?」
「そう、この髪型だしね」
 黒のロングヘアだ、似合ってはいるが。
「余計に言われるのよ」
「口裂け女って黒のロングヘアだからね」
「しかも目がね」
「切れ長よね」
「同じだからね」
 今度は自分の目を指差して言った。
「このこともあってね」
「それで言われるのね」
「中学時代の仇名は口裂け女だったわ」
「えげつない仇名ね」
「まあね、自分でもあたし綺麗?とかやってたし」
 マスクを外してだ、口裂け女はこう言って人を驚かせたのだ。そうして鎌や鉈で襲い掛かる様になっていったのだ。
「面白いから気に入ってたわ」
「気に入ってたの、その仇名」
「そう、だから苦にはならなかったけれどね」
「そうなのね」
「とにかくね」
 そのマスクの顔のまま言う。
「花粉症だからもうね」
「そうして着けてるのね」
「今からね」
「目は大丈夫なの?」
「私は目はあまり大したことないの」
「お鼻なのね」
「ちょっとしたらべちゃべちゃになるのよ」
 何故そうなるのかは言うまでもない。
「お鼻がもうね」
「ううん、じゃあ暫くは」
「このままよ、お茶も飲んでるから」
 甜茶、それをだというのだ。
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