第八章
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「そうなの」
「そういうこと」
また彼女に話す。
「だって。顔の問題じゃないから」
「心なのね」
「顔って。変わるじゃない」
亜紀は言う。
「性格が顔に出て」
「そうそう、出るのよね」
彼女は亜紀の今の言葉を指し示す。指し示すのに使っているのは今オムライスを食べているのに使っているスプーンだった。その銀色のスプーンで指していた。
「性格が顔に出てね」
「変わるわよね」
「性格が悪いと人相まで悪くなって」
これは本当のことだ。実際に悪い生き方をしていると人相もまた悪くなっていく。性格というのは隠せはしないものであるのだ。
「そういう意味で男前とか不細工ってあるわよね」
「じゃあ泉水さんは」
彼女が言った。
「どうなのかしらね」
「男前よ」
亜紀の答えは決まっていた。
「あの人は。はっきりと言えるわ」
「そうね、あの人は確かに男前よ」
「ええ」
亜紀は彼女の言葉にまた頷いた。
「それを言ってもらえて嬉しいわ」
「本当のことよ。あの人はいい人よ」
それをまた亜紀に告げる。
「これから幸せになれるから」
「幸せに。私が」
「いい相手見つけたじゃない」
亜紀に顔を向けて微笑む。
「おめでとう」
「そんなこと言われたら」
笑顔になっている。しかしそれと共に目が少し潤んでいる。
「オムライスが塩辛くなるわ」
「そうね。そうなるわよね」
「だから。今はこれ以上は話してくれない方が」
「いいじゃない。辛いオムライスでも」
けれどまた言うのだった。
「滅多に食べられないんだし」
「そうなの」
「これからは。もっと美味しいオムライス」
今度はこう告げる。オムライスが美味しくなると。
「美味しいオムライス!?」
「幸せだと食べ物が余計に美味しくなるのよ」
それが理由だというのだ。
「だからよ」
「そうだったの。それで」
「そういうこと。わかったわね」
「ええ。そういえば」
ここで亜紀もそのオムライスを食べながら気付いた。今の味に。
「普段よりも美味しいかも」
「幸せは最大の調味料」
これが彼女の返事だった。
「空腹にも勝るわよ」
「そうなの。幸せが」
「願わくばその幸せが永遠に続かんことを」
こうも亜紀に告げる。
「頑張りなさいよ、亜紀」
「ええ」
亜紀はにこりと笑って親友の言葉に頷いた。涙の塩辛さはなく幸せの味がした。その味を与えてくれた泉水に感謝しつつ。今もそのオムライスを食べるのだった。そしてこれからも。
美味しいオムライス 完
2008・4・20
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