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剣の丘に花は咲く 
第十二章 妖精達の休日
第四話 見よ! あれが浴場の灯だ!
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? 歯を食いしばりなさい―――っ!」



 青と白銀の鎧を身に纏い、デュランダル(絶世の名剣)を肩越しに振りかぶったセイバーの姿が―――。

「―――な、何でっ?!」

 その問いへの返信は―――剣の一振りであった。
 セイバーの剣の一閃は、“固定”の掛けられた硬い石壁を難なく切り裂き打ち砕き、風呂場とギーシュたちが作った坑道を繋ぐ巨大な穴を作り上げた。
 
「「「「…………」」」」

 脳の処理機能を超えたのか、漢達はただただ黙って立ち尽くしているだけ。
 今にも死にそうなほど顔を青く染め上げた漢達の一人が、身体の震えからか、細かく揺れる声でセイバーに声を掛けた。

「あ、あの……ミス・ペンドラゴン? その、これはつい出来心で、だから、その、ね。このまま解散ってことで」
「ええ、宜しいですよ」

 予想外の返答に、どよめきが漢達の間から漏れるが、直ぐさまそれは悲鳴へと取って代わられる事になった。

「―――罰を与えてからですが」









 
 つい先程まで夜の闇の中に響いていた悲鳴は、もはや何処からも聞こえてこない。ただ遠くで炎の赤が揺らめく姿と、何かが焦げる臭いが辺りに漂っている。意識があるものは、今では僅か二名しかいない。
 額から流れる血が汗に塗れた頬を伝い、顎先から珠となって流れ落ちていく。
 力なく本塔の壁石に背を預け、足を投げ出した格好で倒れ伏したマリコルヌが、震える顔を持ち上げ自分を見下ろす影を見る。

「く、くく……、さ、流石と言っておこうか」

 血に濡れたマリコルヌは、頬を引きつらせ笑みを浮かべる。

「だ、だが、こ、これで終わったと思うな……ここでわたしが倒れたとしても、第二、第三のわたしが必ず―――」
「ならばその度打倒(うちたお)しましょう」
 
 デュランダル(絶世の名剣)を右手にダラリと下げ、セイバーは静かにマリコルヌに語りかける。
 何の表情も浮かんでいない顔は、整っているからこそ人形染みた美しさと恐ろしさを漂わせていた。
 
「っくく、やはりあなたは素晴らしい……! 水精霊騎士隊副隊長アルトリア・ペンドラゴン―――! あなたこそわたし達の上に君臨するに相応しく―――あなたこそわたし達が覗くに値する存在だ」
「―――言いたいことはそれだけですか?」
「くひっ」

 セイバーの鋭い刃のような視線に晒されたマリコルヌが、引きつけを起こしたように身体を震わせ喉奥から悦びの声を上げる。
 ゆっくりと肩越しにデュランダルを振りかぶったセイバーが、硬く冷えた目でマリコルヌを見下ろす。

「さて、言い残したことはもうないか? 神への祈りはどうだ? 震えて命乞いをする心の準備はすませたか?」
「ひっ―――ひひ」


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