第十二章 妖精達の休日
第四話 見よ! あれが浴場の灯だ!
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何度となく様々な作戦でセイバーへと挑んだが、その尽く返り討ちにされボコボコにされ、苦い記憶と痛みを精神と肉体に刻み込まれていた。そのためか、調教と言うか条件反射と言うかセイバーに関わる事に対して拒否反応めいたものが出るようになってしまっていた。それは空中装甲騎士団の団長やギーシュだけではなく、他の団員や隊員たちも同様であった。
しかし、マリコルヌだけは違った。
セイバーを前にすればハートマン軍曹を前にした訓練生のように震えてしまうギーシュたちの中で、マリコルヌだけが歪んだ笑みを浮かべては隙を見てはセイバーへとちょっかいを掛け続け、その度に地面へと這い蹲らせられては悦びに身をうち震わせていた。
明らかに異常であった。
確実に変態であった。
しかし、彼らの中で唯一人セイバーへと立ち向かえる人材であった。
セイバーに仕返しをしたい。だが、セイバーへと反抗しようとすると身体が震え思考がまとまらない。そのため、誰かに指揮を取ってもらい前へと引っ張ってもらわなければセイバーへの仕返しなど夢のまた夢の状態であった。
だからこそ、唯一人セイバーへと立ち向かえるマリコルヌをギーシュたちは指揮官に仕立て上げたのである。
そして現在、ギーシュの使い魔であるモグラのヴェルダンデや魔法を使い、彼らは異様と言える情熱と執念を持って地下を掘り進んでいき、僅か数時間で女風呂と繋がる灰色の石壁へと辿り着いた。彼らはその場にいる全員が同時に覗きが出来るよう壁沿いに穴を広げると、横一列に並び壁に張り付いた。目を血張らせ、壁に頬を擦り付けながら歪んだ顔で彼らは一心不乱に呪文を唱え続ける。
唱える呪文は“錬金”―――土系統の基本の呪文だ。
錬金をキリとして、厚さ二十センチの浴槽の壁石に一センチ程度の小さな穴を開ける。ただ開けるだけならば難しいが不可能ではない。しかし、彼らが穴を開けようとする壁石の地上部分には、魔力を感知する“探知”が掛けられている。地下にはその効果が及ばないと確信はしているが、しかし絶対と言うわけではない。もし、万が一であるが感知される事があれば、それは計画の失敗と言うだけでなく、彼らの死を意味する。
世間的にも……肉体的にも……である。
そのため、彼らは“錬金”に細心の注意を持ってコントロールを行っていた。弱過ぎれば壁に穴は開かず、強過ぎれば探知される……常にその中間で持って“錬金”を唱え続けなければならない―――それはもはやシャベルで細かな銀細工を作るかのような無茶な行為であった。
時間を掛ければ気づかれてしまう可能性がある。だから僅かな時間で行わなければならない、しかし、それには一体どれだけの集中力がいるのか……無理や無謀と言うよりも、もはや不可能と言っても
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