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剣の丘に花は咲く 
第十二章 妖精達の休日
第四話 見よ! あれが浴場の灯だ!
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 ―――なんで……何で、こんな事になってしまったのだろう……。



 ……燃えている。

 ああ―――燃えている。

『糞ッ! 糞ッ! クソォオオッ!! 何だアイツッ?! 何なんだよアイツはッ?! 化物! 化物だぞッ!?』

『来るなッ! 来るなッ!? クルナアアアアああアアアアアアァァァッ!!?』

『痛い痛い痛い痛い痛いぃぃ!! 誰かッ! 誰かあああっ!!』

衛生兵(メディック)ッ! 衛生兵(メディィィッック)ッッ!』

『ああっ! ああ、ああッ!! 地獄だ! 地獄だぞココはッ!!』

 夜の帳が落ち闇に沈んだ世界に―――悲鳴が、怒声が、炎と燃え上がる。

 この世に顕現した地獄を前に、ただ、ただ立ち尽くすしか出来ない。

 頬を流れる涙が、燃え盛る炎に炙られ直後に乾く。

 崩折れた膝が地に落ち、天に祈るように仰ぎ見る視界に、赤く染まった月を背に浮かぶ影が映る。



「―――何で、こんな事になってしまったんだ?」 



 朱月を背に浮かぶ影が、大きく翼を広げ終末を告げる笛(ギャルンホルンの笛)のように咆哮を上げた。











 ―――地獄が現世に現れる数時間前。
 日が地平線に沈み始める頃。
 魔法学院の正門前に広がる平原に設置された軍用の天幕の中でも一際大きなそこに、三十人程の男が集まっていた。
 大きいとは言っても、縦横六、七メートル程度の大きさの天幕である。十〜二十人ならばともかく、三十人もの男たちが入れば窮屈極まりない。明かりもわざとしているのか判然としないが、間近に見なければ互いの顔を確認できないほどの暗さである。入り口は締め切られ、窓もないことから、天幕の中は殆んどサウナ状態であった。それも、漢達の汗が熱せられて出来たミストサウナである。入るどころか近づきたくもない代物だ。
 日が沈み、気温が下がり始めるのに反し、天幕の中の温度は時間と共にジリジリと上がっていく。熱の発生源は男たちである。サウナと化した天幕の中にいるからではなく、これから始まる事に対する期待により生ま出てる熱だ。
 高まる熱と期待と漢達のテンション。
 それが最高潮に達した時、天幕の入り口が大きく開かれた。
 漢達が息を呑む中、明かりがなく、闇に沈んでいた天幕に光が差し、入口の前に立つ男の影を浮かび上げる。入り口が閉じ、再度天幕の中に闇が満ちると、数瞬の後、ぼうっと、魔法の明かりが灯った。その光が天幕の中を染めていた闇に慣れていた漢達の目を眩ませた。目を閉じ、強く目蓋を抑える等して視界を回復させた男たちが、再度顔を上げた時、既にそこには彼らが待っていた男がいた。



「―――諸君、わたしは女性が好きだ」




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