第五章
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「はい」
「宜しければまた来て下さい」
「わかりました」
「しかも二人でね」
またここで親父が笑って二人をからかうのだった。
「是非来てくれよ」
「だから親父さん、それは」
泉水は食べながら親父に困った顔を見せて言葉を返す。
「言わないで下さいよ」
「悪い悪い」
あまり反省していない顔で応える。亜紀はそんな泉水の様子がおかしくてならずそれと共に彼の持っている人間性、とりわけ愛嬌に気付いて親しみを感じるのだった。
それから二人は一緒に食事をすることが多くなった。泉水は色々な店を知っていてそこを亜紀に紹介するのだ。どれもあまり奇麗な店ではなく庶民的な場所ばかりだったが味と値段、それに人は確かだった。亜紀はそのことに満足しつつそれと共に泉水にさらに親しみを感じていくのだった。
「こうした店以外に連れて行ってやれないんですよ」
「連れて行って?」
「はい」
カレー屋に行った後だった。その帰り道に話をしている。昼で周りには二人と同じく食事に行くか既に済ませたサラリーマンやOL、学生達が行き交いしている。左右には様々な店屋が並んでいる。その中で話をしていた。
「子供達を」
「子供達をですか」
「休日でも忙しくて」
申し訳なさそうな顔での言葉だった。
「どうしても時間がなくて」
「それでもお子さん達のことを忘れていないんですね」
「忘れるわけがありませんよ」
にこやかな笑顔だった。それを亜紀にも見せている。
「自分の子供を忘れる親はいませんよ」
「そうなんですか」
「当たり前じゃないですか」
こうまで言う。
「親は子供の為にいるんですから」
「親は子供の為に」
「そうです」
これは彼の信念らしい。疑いなぞ微塵もないといった感じで話しているのが何よりの証拠だった。嘘偽りも何処にはなかった。亜紀にもそれがわかる。
「それでも。あまり構ってやれないのがね」
「大変なのですね」
「男やもめですから」
「男やもめですか」
「家事もね。家内が亡くなるまで碌にしたことなかったですし」
これはよくある話だった。今でも家事は女がすることだと思っている者が多いのだ。これはどうしてもそうなってしまうのだ。昔からある固定に近い考えだからだ。実際のところは男であろうが女であろうが家事はするものなのだが。何故かそういう考えはあまり広まらない。
「やっと馴れてきましたけれど」
「そうなのですか」
「だから。せめて」
また亜紀に話す。
「美味しいものを食べさせてやりたくて」
「ですよね。子供には」
「はい」
亜紀の言葉に頷く。やはりここでも笑顔だった。
「そうなのです」
「わかりました」
亜紀もまた彼の言葉に頷いた。
「そのことが」
「そのことがですか」
「ええ。泉水さんがど
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