憎悪との対峙
30 母としての愛情
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上のあらゆるショッピングサイトを見てきたアイリスからすれば、すぐにその価値が分かった。
ランボルギーニを乗り回すようなハートレスが着けていても何ら不思議はない。
しかしそれがコンステレーションの中でも特殊なモデルだったことに気づく。
「ペアウォッチ」
「え?」
「その時計」
それはハートレスに好きな相手がいるか、もしくはいたことを意味していた。
「...ハァ...よく分かったわね。私にも若い頃というものがあってね。大学にいた頃、初恋の相手、幼なじみと結婚したわ。そして娘を授かった。私も彼も家族を失っていたから本当に嬉しくてね...」
ハートレスは更に自分のワイシャツの下に隠していたペンダントを見せた。
それは美しい光を放つダイヤモンドの指輪にチェーンを通して首に掛けたものだった。
「あなたに娘さんが...?」
「最初は3人、幸せな日々を送っていた。でもその日々もすぐに終わったわ。娘は重度の筋無力症だったのよ。最新の治療でも手のうちようが無くて、余命3年、合併症で呼吸不全を起こして死ぬところまで分かりきっていた。私たちは必死に治療法を探し、手を尽くしたけど救えなかった」
「じゃあ...」
「そこに救いの神が現れた。彼は縋り付く思いで娘を預け、回復を祈ったわ。そしてその思いが通じたのか娘は助かった。でも回復した娘は私たちの知る娘ではなかった」
「え?」
「私たちの事を全く覚えていなかった。そして奪われた。救いの神は悪魔だった。最初から娘が目当てだったのよ。治療の時の娘の体質データを見て、自分たちの要望通りの人間だったから。彼は何度も何度も娘を取り返そうとした。でも警察は話を聞こうとしない、それどころか逆にどんどん追い詰められた。娘を奪った彼らはそれでこそ裏社会にも影響を与えるような巨大な闇、手は届かないし、彼らが裏で手引して私たちの財産も何もかもを奪った。自分の無力さを痛感し、絶望した彼は遂には深い眠りに落ちて、未だに戻ってこない」
ポケットから紙焼きの写真を取り出し、アイリスに見せた。
今時は珍しいものにアイリスも驚きつつ手に取る。
そこには今でも十分若く美しいハートレスの可憐な少女のような姿、そんな彼女を後ろから抱きしめる端正で凛々しい顔立ちの少年、そして2人の愛の結晶とでも言うべき、ハートレスをそのまま子供にして少年の凛々しさを加えたような桜色の髪をした少女が写っていた。
しかしアイリスはこの少女に見覚えがあるような気がした。
「彼が自ら口を開かなくなったことで、1人きりの平和な日々になった。でも私は全てを捨てた。復習するために。裏社会に入って自分に近い設定の人間の戸籍を手に入れ、経済や株について学んで資金を手に入れ、今...復讐の対象であるディーラーの幹部まで上り詰めた」
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