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異伝 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(ヴァレンシュタイン伝)
異聞 第四次ティアマト会戦(その2)
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困ったことに、あるいは助かったのかもしれないが殴り合いにはならなかった。

帝国、反乱軍両軍の砲火は激烈だったが最初のうちは全く当たらなかった。重力と嵐の所為で弾道計算すらまともにできない。ようやくできた弾道計算も一瞬の環境変化で意味の無いものになってしまう。

「馬鹿野郎! なんで風が変わる!」
「ふざけるな、もう一度計算しろと言うのか!」
オペレータの悲鳴と怒号が艦橋に上がる。

「落ち着け! もう一度計算するんだ! 苦しんでいるのは敵も同じだ。諦めるな!」
俺に出来る事は連中に落ち着けと言い続ける事だけだった。参謀達も一緒になってオペレータ達を宥めるのに必死だった。戦闘指揮よりもカウンセラーにでもなったような気分だ。

この状況では彼らを役立たずと責めることは出来ない。そしてどれだけ環境が変化しようと計算し続けろと命じるしかない。徐々に徐々にだが同盟軍が押してくる。自然環境の所為で思い切った戦術行動を取れない、出来るのは正面からの押し合いだけだ。そして自然環境は帝国よりも反乱軍を贔屓にした。大きな乱気流が起き艦隊の隊列が崩れた、そして反乱軍がそれに乗じて攻め寄せてくる。

「怯むな! 撃ちかえせ! 反撃するんだ!」
ともすれば崩れがちな味方を叱咤して支える。絶望的な気持ちになった。支え切れるか? 無理だ、敵は勢いに乗って攻め寄せてくる。ロイエンタール、ミッターマイヤーも崩れそうな態勢を支えるので精一杯だ。先頭の俺、両翼の二人、そのどれかが崩れれば艦隊は一挙に崩壊するだろう。

「司令部より入電!」
オペレータが声を上げた。撤退命令か? そう思ったのは俺だけではあるまい。そしてその困難さに絶望したのも俺だけではないだろう。皆が暗い表情で俺を見ている。

「何と言ってきた?」
「あと三十分だけ踏みこたえろとのことです。起死回生の策は既に考えて有ると」
三十分? 起死回生? この状況からそれが出来るのか? 環境に沈黙が落ち、皆が顔を見合わせた。

「あと三十分踏みこたえましょう。必ず勝ちます、ミューゼル提督を信じるのです」
沈黙を破ったのはヴァレンシュタイン少佐だった。気負いも必死さもない。静かな口調だった。皆が少佐を見つめると少佐はもう一度言った。
「必ず勝ちます」

そうだ、ミューゼル提督を信じるのだ。
「後三十分だ、皆、踏みとどまれ!」
俺の檄に皆が頷いた。大丈夫だ、皆顔に生気が戻った。後三十分は何とかなる。問題はその後だ、本当に三十分で勝てれば良い、そうじゃなければ艦隊は崩壊する……。

ヴァレンシュタイン少佐を見た。この混戦、劣勢にも関わらず彼女は落ち着いている。少佐が俺を見た。頬に笑みを浮かべる。
「必ず勝ちます」
「そうか」

彼女が俺に近づいてきた。俺の答えが気に入らなかっ
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