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気配りの人
第一章
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                  気配りの人
 不意にだ、仕事の後で居酒屋で飲んでいるとだ、一緒に飲んでいた小野田さんが不意にこんなことを言い出した。
「最近何かな」
「何かっていいますと」
「いや、豪快な人がいなくなったよな」
 こうだ、しみじみとして僕に言ってきたのだった。
「本当に」
「豪快な人がですか」
「昔はいたんだよ、遊びだってな」
「ああ、勝新とか」
 勝新太郎のことをだ、僕はここで言った。
「あの人とか」
「豪快にお金使って遊ぶ人がな」
「いなくなりましたか」
「ああ、皆大人しくなったよな」
 小野田さんは六十近い、もうすぐ定年の人だ。それだけに昔のことを知っていて時々僕にもこうしたことを話してくれるのだ。
「今は」
「小野田さん時々そうしたことをお話してくれますよね」
「実際にそう思うだろ」
「そう言われればそうですかね」
 僕も小野田さんのその言葉に頷いて返した、
「最近は」
「二十一世紀になってからな」
「時代が変わったんですね」
「ああ、けれど昔はな」
「そうした人もいたんですね」
「そうだよ、勝新もそうで」
 それにというのだ。
「豪快だったけれどね」
「お金を目茶苦茶にかけて遊んで」
「そうした人達だったんだけれどね」
 だがそれでもだったというのだ。
「気配りが出来てたんだよ」
「何かそこが微妙ですね」
「そうそう、後はね」
「後は?」
「勝新で思い出したけれど」
 ここで小野田さんの話の対象が変わった、誰についてかというと。
「市川雷蔵だけれど」
「あっ、勝新と大映の二枚看板だった」
「F君あの人のことは知ってるよね」
「あれですよね、眠狂四郎とかの」
「そうそう、凄い映えた外見と演技だったけれど」
「実際はですよね」
「違ったんだよ」
 小野田さんはこう僕に言ってきた。
「勝新の素顔はもう有名で」
「豪快でも気配りが出来ていて」
「けれどあの人はね」
「凄いもの静かな人だったんですね」
「実はわし子供の頃京都にいてね」
 このこともよく僕に話してくれることだ、それで京都の酒が好きだといつも僕に言っていて今も飲んでいるのは京都の日本酒だ。
「その時に会ったんだよ」
「市川雷蔵に」
「そうそう、それでだけれど」
「本当に普段見ると全然誰かわからなかったんですよね」
「誰かっていう位にね」
 勝新太郎と違って、というのだ。
「わしも最初見た時びっくりしたよ」
「あれが市川雷蔵かって」
「そこまでね、けれどね」
「けれど?」
「確かに市川雷蔵はもの静かでね」
 素顔の彼の話が続く、僕はビールを飲み焼き鳥を食べつつそのうえで小野田さんの話を聞いていった。
「真面目な人だったけれど」
「遊びはですか」

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