第二章
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「綺麗好きよね」
「ええ、口五月蝿い程にね」
「軍服もいつも綺麗で」
「靴までね」
「ご自身にも厳しいわね」
「そうした人みたいね」
「けれどね」
それでもだった、彼女達はまだ警戒を解いてはいなかった。
自分達にその手にしている権力をどう使ってくるかわからない、それでだった。
まだ警戒を解いてはいない、それでだった。
彼女達はまだ東条を恐れていた、しかし。
ある日のことだった、東条は働いている事務員達の横を通り掛かった。その時に彼女達にこう言ったのだった。
「お疲れさん」
「えっ、総理今何と」
「何を仰ったのですか?」
「お疲れさんと言ったんだが」
東条は怒らなかった、少し戸惑う顔でこう応えただけだった。
「それが何か」
「いえ、そうですか」
「お疲れさんですか」
「うん、君の生まれは確か福島だったね」
ここでその事務員にこう言ってきた東条だった。
「そうだったね」
「そうです。御存知だったんですか」
「働いている者のことは頭に入れておかないと」
駄目だとだ、東条はここで几帳面な性格を出した。
「そう思っているからね」
「だから私のことも」
「親御さんはお元気かな」
東条はその事務員にこうも尋ねてきた。
「故郷におられるね」
「はい、元気にしています」
事務員はまだ驚いていた、それで緊張している顔と声で答えた。
「今も」
「そうか。ならいいが」
「はい」
「親御さんは大事にしなさい」
優しい声での言葉だった、温厚な。
「出来れば手紙も書いた方がいい」
「親にですね」
「そう、書いて無事を教えてあげるべきだ」
こうした気配りも見せて言うのだった。
「だからね」
「そうですか、それでは」
「あと。君も他の事務員の人達もいい年頃だね」
東条は穏やかな目で事務員達を見てこうも述べた。
「お相手もね」
「わかりました、では」
「そのことも」
「そういうことでね」
東条は穏やかな笑顔のまま彼女達のところを後にして他の場所に向かった。今も働いていた。こうしたことが一度や二度ではなかった。
何度も彼女達に穏やかで優しい声をかけた。彼は。
そしてだ、陛下から下賜された金もだった。
自分の懐には一切入れなかった、部下達に分けていった。しかも。
女性の事務員達も呼んだ、それで彼女達の前に封筒に入れた金を差し出して穏やかな声で告げたのだった。
「君達も受け取りなさい」
「えっ、ですがそのお金は」
「総理が陛下から頂いたものですよね」
「総理のものですが」
「それを」
「私は金は欲しくはない」
実際に東条は金には無欲だった、給与だけで暮らしている。それで下賜された金もいらないというのである。
「だからだ」
「それでなんで
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