安息の住処
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がむしゃらに攻めても柳に風。計算して攻めても読み通りとばかりに追撃を食らう。
「そうか……俺はこのくらい戦えるのか」
淡々と、余裕のある一声だった。わたしを苛立たせる程に。
心底から湧き上がる悔しさは轟々と燃え上がる。だから試合だという事も忘れて、わたしは戦のように殺気を叩きつけてしまった。
次には氣弾を放ってやろう。わたしの本気を見せよう。そう、心に決めた。
瞬間、彼が飛びのいた。その瞳は昏く、暗く、落ち込んで行く。彼からも殺気が膨れ上がり、口元が徐々に引き裂かれていく。
――なんて……嬉しそうなんだ。
ソレはエモノを見つけた獣のよう。わたしはなにか異質なモノを呼んでしまった気がした。
――でも、ほっとしたように、安住の地に辿り着いたように見えるのはどうしてだろう……
わたしの背筋には寒気が起こる。反して高ぶる心は戦いたいと吠えていた。
武人の性。守りたい心とは裏腹に溢れ出る、捨てようのない燃え滾る感情。強い者と戦いたいという想いは、抑え付けようも無かった。
此処は彼の間合いの外。即座に攻撃が届くはずも無い。
全身の氣を脚に収束させていく。ギシリと身体が警告の軋みを上げた。
彼は肩の高さまで掲げた剣を水平に構え、その切っ先をわたしに向けた。
見た事があるから知っている。アレは……間合いの外から俊足で放つ彼の得意技。近付かれた事すら春蘭様並でなければ分からない、必殺の一撃。
わたしの技は見せた事が無いから知らないだろう。否、記憶を失っているのだから知らないのは当然。放たれるまで分からないから……きっと当てれる。
受けてくれるらしい。直ぐにでも突撃してきそうだというのに、彼は自身を無理矢理抑え付けているように見えた。
呼吸を整え、腹に力を込める。
研ぎ澄まされた意識は彼の動きを見逃すまいと一つの槍の如く収束していく。初めて、世界が遅くなった気がした。
そのまま、無意識の内に喉から裂帛の声を絞り出した。
「ハァァァッ!」
脚を振り抜き氣弾が放たれた……まさにその直後、予測しておらずとも避ける動作に移った彼の表情が――――子供のような笑顔に変わったのが見えた。
「うおっ! あっぶねぇ!」
本当にギリギリの所で彼はわたしの氣弾を避けた。
後方へ抜けて練兵場の大地に激突した氣弾が爆ぜたのを見送り、お手上げと言ったように彼は降参を示す。先程の殺気など嘘のような緩い空気で、楽しそうに笑いながら。
「あはははは! すげぇ……すげぇよ楽進殿! 俺の負けだ! 脚に力込めてたから何かしてるなとは思ったけどあんなの放てるのか! さすがにアレ喰らったら汚い花火になっちまう! すっげぇ羨ましい! 良かったらアレを教えてくれ!」
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