暁 〜小説投稿サイト〜
乱世の確率事象改変
安息の住処
[6/12]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
秋斗はピタリと剣を止め、それを見た月は近づいてくる二人を不思議そうに見つめた。

「徐晃さんと月ちゃん、こんにちはー、なの! 沙和は于禁って言うのー♪」
「お、おひっ、お久しぶりで……い、いやっ、はじ、初めまして? 楽進、です」

 瞬間、秋斗は盛大に吹き出した。

「くっ、あははっ! なんでそんなに噛み噛みなんだよ」

 言われると、凪は恥ずかしさから顔をみるみる内に茹で上げ俯く。
 沙和は凪の様子が可愛らしくて、手を口に当ててクスクスと笑った。
 傍に置いていた桶の中、濡れた手ぬぐいを手に取って差し出した月は、ジトリ……と秋斗に非難の目を向ける。

「あー、ごめん。いきなり笑うなんてさすがに失礼だった。えーっと、警備隊西区隊長の于禁殿、そんで東区隊長の楽進殿、だな。警備隊の野郎どもからいい上司だって聞いてるよ。知ってると思うが俺は徐晃、徐公明だ。楽進殿、笑って済まないな」

 苦笑を零してから、秋斗は柔らかに謝る。

「いえ。構いません。月も久しぶり」
「お久しぶりです、凪さん、沙和さん」

 月とはあの交渉の後、ほんの短い時間出会っており、真名を交換してある為に互いに顔見知りである。沙和は月の救出時の現場に関わっていたので、董卓の真実を聞いて驚愕していたのはお察しである。
 微笑みを向けられ、沙和は同じように笑みを向ける。
 滴る汗を拭っていた秋斗は和んだ空気から穏やかな声を紡いだ。

「なんでわざわざ練兵場に?」

 不思議そうに尋ねる秋斗に対して、二人は一寸だけ逡巡した。
 沙和は凪にコクリと頷き、凪も、意を決したように拳を固めた。

「徐晃殿、わたしと……勝負して頂けませんか?」
「勝負? コレでか?」

 ひょいと自分の剣を持ちあげ、訝しげに眉を寄せる秋斗。その瞳には若干の怯えが見て取れた。

「は、はい。そう、です」

 それを読み取ってしまったが故に、凪は言葉に詰まる。

――もう、前のあの人では無いんだ。

 凪は明確に実感した。
 自分の憧れた徐公明では無い、と。怯えなど無かったはずなのに。
 分かり易く表情に出た凪であったが、どうしようかと考える為に俯いて、目を離していた秋斗はそれに気付かず……ゆっくりと瞳が冷たく凍って行く。

「いいよ、勝負しよう。俺がどれだけ戦えるかも確かめておきたかったんだ。一人でする鍛錬じゃあ出来る事も限られてくるからな」

 渦巻く瞳の色は黒一色。感情は揺れ動いていない。怯えも消えた。
 どうして切り替えられたのか秋斗には分からない。しかし何故か、酷く懐かしく、まるで戦う事が安らぎであるかのように感じた。

 ただ……誰かに止められたような気がして、哀しみも少し湧いた。

 あの時怒ってくれた“彼女”は、今
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ