安息の住処
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秋斗はピタリと剣を止め、それを見た月は近づいてくる二人を不思議そうに見つめた。
「徐晃さんと月ちゃん、こんにちはー、なの! 沙和は于禁って言うのー♪」
「お、おひっ、お久しぶりで……い、いやっ、はじ、初めまして? 楽進、です」
瞬間、秋斗は盛大に吹き出した。
「くっ、あははっ! なんでそんなに噛み噛みなんだよ」
言われると、凪は恥ずかしさから顔をみるみる内に茹で上げ俯く。
沙和は凪の様子が可愛らしくて、手を口に当ててクスクスと笑った。
傍に置いていた桶の中、濡れた手ぬぐいを手に取って差し出した月は、ジトリ……と秋斗に非難の目を向ける。
「あー、ごめん。いきなり笑うなんてさすがに失礼だった。えーっと、警備隊西区隊長の于禁殿、そんで東区隊長の楽進殿、だな。警備隊の野郎どもからいい上司だって聞いてるよ。知ってると思うが俺は徐晃、徐公明だ。楽進殿、笑って済まないな」
苦笑を零してから、秋斗は柔らかに謝る。
「いえ。構いません。月も久しぶり」
「お久しぶりです、凪さん、沙和さん」
月とはあの交渉の後、ほんの短い時間出会っており、真名を交換してある為に互いに顔見知りである。沙和は月の救出時の現場に関わっていたので、董卓の真実を聞いて驚愕していたのはお察しである。
微笑みを向けられ、沙和は同じように笑みを向ける。
滴る汗を拭っていた秋斗は和んだ空気から穏やかな声を紡いだ。
「なんでわざわざ練兵場に?」
不思議そうに尋ねる秋斗に対して、二人は一寸だけ逡巡した。
沙和は凪にコクリと頷き、凪も、意を決したように拳を固めた。
「徐晃殿、わたしと……勝負して頂けませんか?」
「勝負? コレでか?」
ひょいと自分の剣を持ちあげ、訝しげに眉を寄せる秋斗。その瞳には若干の怯えが見て取れた。
「は、はい。そう、です」
それを読み取ってしまったが故に、凪は言葉に詰まる。
――もう、前のあの人では無いんだ。
凪は明確に実感した。
自分の憧れた徐公明では無い、と。怯えなど無かったはずなのに。
分かり易く表情に出た凪であったが、どうしようかと考える為に俯いて、目を離していた秋斗はそれに気付かず……ゆっくりと瞳が冷たく凍って行く。
「いいよ、勝負しよう。俺がどれだけ戦えるかも確かめておきたかったんだ。一人でする鍛錬じゃあ出来る事も限られてくるからな」
渦巻く瞳の色は黒一色。感情は揺れ動いていない。怯えも消えた。
どうして切り替えられたのか秋斗には分からない。しかし何故か、酷く懐かしく、まるで戦う事が安らぎであるかのように感じた。
ただ……誰かに止められたような気がして、哀しみも少し湧いた。
あの時怒ってくれた“彼女”は、今
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