安息の住処
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煮え切らなかった。
「めんどくさい事務仕事も終わったし善は急げなの♪」
「いや……まだ心の準備が……」
「ふふ、それじゃ恋する乙女みたいなのー♪」
「ここ、こいっ!?」
凪は即座に顔を茹で上げ、思考がぐるぐるとまわり続ける。
にやにやと笑いの種類を変えた沙和を見て漸く、彼女の思考は正常に回り出した。
「ちがっ……違う! わたしはただ純粋に――――」
「あ! あの服すっごくかわいいのー!」
言い終わらぬ内に、とててっと駆けて行った沙和。警備中ではあっても彼女がおしゃれを忘れるはずも無く、また空気がうやむやにされてしまった。
茫然とその背を見やる事数瞬、凪は大きくため息を吐いた。
――そんな浮ついた感情じゃ無い。季衣が春蘭様に憧れているように、流琉が秋蘭様を目指しているように、追いつき認めて貰いたい人がいるだけなんだ。
あの時、彼は確かに落胆を浮かべていたから。成長した自分を認めて貰いたかった、というのも彼女の内にある一つ。
ふるふると頭を振るった凪は、瞳を子供の様に輝かせて服を見ている沙和に近付いて行き、厳しく聡してからまた連れ立って歩き出す。
そんな二人の変わらない普段通りの何気ないやり取りが、街の民からの信頼を強くしているというのは、彼女達も気付いていない優しい事実。
そして街の警備隊の様子から、秋斗の二人に対する評価がかなり高いのも、まだ知らない。
†
夕暮れの斜陽は大地を橙に照らし出す。
行き交う人々もまばらになり始めるこの時間帯は何処か寂しい。平和な一日で終われたのだ、だから本来は嬉しく思う所であるのだが……活気溢れる街が好きな沙和としてはやはり寂しく思ってしまう。
――夜も皆で元気に遊べたらいいのにー
叶うはずも無いその願いは宙に消える。
遠い目をして、てくてくと歩く二人は無言。隣を見ると、凪は緊張からかカチコチと堅い動作で、表情は何時にも増して厳しい。
警備隊の仕事を終え、練兵場に向かう途中である。
秋斗がこの一月関わった為に幾分か良さげな改良点が追加されていて、彼女達二人はそれの確認もしていた為に予定より少し遅くなった。まあ、街の子供達から秋斗の情報を聞いている途中に、遊びに引き摺りこまれたのも理由の一つではあるが。
どうにか緊張を解きほぐしたいと願う沙和。しかし掛ける言葉が思い浮かばない。
そうこうしている内に練兵場に付き、二つの人影が見えた。
大きな体躯にすらりと長い手足。振っている剣は長く、長い時間鍛錬をしていたのか甚大な汗を滴らせている。
その近くには、上品に手を重ねて姿勢よく、優しく微笑みながら、飽きる事無く鍛錬の様子を見ている白銀の髪を流した侍女。
直ぐに気付いた
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