安息の住処
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――なんで……あの人が壊れなければならなかった。
沙和に向けていたモノとは同一でありながら方向性の違うモノが溢れ出す。
彼女は彼に憧れていた。それは羨望に近い。
元より忠義溢れる武人の在り方に重きを置いていた彼女ではあったが、何よりその根幹には誰かを守りたいという想いを携えていたが為に。
そうやって戦い続けてきた彼女にとって、一番の指標を彼に見ていたのだ。
初めはその冷徹なやり方に納得出来なかった。
彼は彼女の目の前で、昨日まで同じ釜の飯を喰らっていた仲間を切り殺せと言ったのだ。優しい気質の彼女がソレを止めないわけが無い。
そんな凪に対して、あの時の彼は鋭い怒りを向けて理を説いた。
よく考えても納得出来ず、華琳に報告した時も不満を全面に押し出した……が、華琳はそれを聞いて楽しげに笑った。
その時は主に対してさえ不信感が沸き立つも、それを為さなかった場合に何が起こるかを細部まで説かれて……凪は衝撃を受けた。
最後に華琳が言ったのはこんな言葉。
『凪、理解したなら心に刻み付けなさい。感情のままに一つの命を助ける事で、自分の守りたいモノさえ殺してしまい、為したい事さえ失わせる事もあるのよ』
小を切り捨てて大を取る……では無い。
守り抜きたいモノを殺させない為に誰かを殺す。それは戦の論理と同じ、そして自分の為したい事の末路と相似であった。
時と場合によりけり。規律の在り方は一律では無い為に、日常に於いては安易に殺すなどは有り得ない。されども戦時、さらに幾多の事柄が絡み合ったあの時だけは、彼の選択は一つの答えであり、華琳に対しては最良。
それからの彼女は思考を止める事無く、悩みながら親友たちとも相談して、心と規律の両立を重んじた。沙和や真桜に和まされ砕かれながらも警備隊を出来る限り律して、彼女達それぞれの色はあれども、警備隊を『曹操軍とほぼ同じモノ』に仕上げてきた。
自身の甘さを見つめなおした一件の後には反董卓連合、そして洛陽のあの出来事である。
羨望を向けないわけがない。
飛将軍に瀕死の重傷を負わされて尚、彼は少数の部隊だけで民を救うために戦場を駆けた。曹操軍が協力しなければ、孫策軍が同意しなければ、敵のど真ん中でどうなるのかも分かっていたはずなのに。
誰かを守りたいと願う彼女は、己が身を引き摺ってでも誰かの為に動く彼が、自分の行き着く姿であると感じた。
だから彼女は彼が記憶を失った事を聞いて、曹操軍の中でも華琳の次くらいにショックを受けていた。
此処に客分として所属する、と戦中に聞いた時は歓喜に震え、同じように肩を並べて誰かを救うために戦えるのだから、男ながら春蘭とさえ戦える彼のように、自分ももっと強くなろうと気持ちを高めてさえいた。
兵の扱いにしても
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