第二章
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「いや、夢ではない」
吉太郎は驚く家族の者達に笑顔で述べた。
「これはまことのことじゃ」
「まことの」
「では本当に桜が」
「うむ。咲いておる」
目を細めさせての言葉だった。
「まさかな。こんなことが」
「桜からの最後の贈り物なのかも」
あの幼い孫娘がまた言ってきた。
「最後の?」
「だって。お爺様の最後だから」
他の家族にも吉太郎にもそう述べた。
「だから桜が」
「そうなのか」
「それで」
皆娘のその言葉に頷いた。
「咲き誇っているのか」
「だとしたら。何と有り難いことじゃ」
吉太郎はそのことにあらためて心を奮わせた。そうしてその目に涙をたたえながら言うのだった。
「最後に満開の桜を見られるとは。桜よかたじけない」
桜は彼の言葉には何も答えない。相変わらず咲き誇っているだけであった。
「これで。心地よく旅立てるわい」
「ではお爺様」
「うむ」
消え入りそうな声で周りの者達に言う。
「ではな。行って来るぞ」
「ええ、これで」
「皆も桜も。かたじけない」
そう言い残してゆっくりと目を閉じた。桜花びらはそのまま咲き誇っていた。それから吉太郎の命日には毎年秋だというのに咲き誇った。人々はこれを伊予の秋桜と呼んだ。
伊予の秋桜 完
2007・9・10
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