暁 〜小説投稿サイト〜
氷結鏡界のエデン 〜記憶を失ったもう一人の・・・〜
楽園幻想
プロローグ『浮遊大陸』
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親のような、微笑にも近い優しげな表情へ。

「わたしが聞きたいのはただ一つだけ。お前は穢歌の庭の何層まで堕ちた? 第五鏡面か、第六鏡面か。それとも、最深部に流れる『あの歌』を聞くことができたのか?」

 その問いかけに ーーーー
 今まで沈黙していた少年が弱々しく口を開けた。しかし、声にするだけの力は無く、半開きの口からは(かす)れた息が()れただけ。

「答えたくてもその体力も無いか。まあそれはそれで構わない、遠からぬうち自ずとわかることだ」

 夜の暗がりの中でも目に付く艶やかな黒髪を()く彼女。

「わたしの名はツァリ。だがここで覚える必要は無い。いずれまた、嫌でもわたしの名を聞く時が訪れる。だからこそ今は ーーあらためてお前たちを歓迎しよう」

 そして。
 深い琥珀色の瞳に輝きを灯し、ツァリと名乗る女性は少年と少女の手を握りしめた。

「ようこそ、穢歌の庭に堕ち、浮遊大陸(オービエ・クレア)へと登り帰った者よ。千年、凍てついた楽園がおまえたちを待っていた」

 その夜、浮遊大陸(オービエ・クレア)は観測史上稀(かんそくしじょうまれ)に見る豪雨(ごうう)を記録した。

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