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業は消えて
第二章
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第二章

「確かに身体はこんなふうになっちまったがそれでもまだ金はある」
「金はですか」
「これから生きられるだけのはまだな。だからいいんだ」
「そうですか」
「俺のことは気にするな。もう一人で生きていける」
 こう告げてその残った僅かな者を去らせたのだった。屋敷も売りそのうえで小さなアパートに入って一人暮らしをはじめた。何をするにも一人だった。
 洗濯や家事もだった。ところがそれまでそうしたことはしたことがなくおまけに脳梗塞の影響で満足に動けない為に苦労した。
「入れるのが一苦労だな」
 洗濯物を洗濯機の中に入れるだけでも辛かった。
 洗濯の仕方も最初は訳がわからなかった。説明書を読んで何とかわかりそれでやれるようになったがそれまでには一月もかかってしまった。
 食べるものは適当だった。コンビニでパンを買ったり店で食べたりしているがそれ自体も最初は苦労した。自分で何かを買うことも久し振りだったからだ。
「これが一人ってやつなんだな」
 彼はこのことをあらためて知ったのだった。
「案外辛いものだな」
 言いながらコンビニで買った餅を食べる。倒れてから舌が変わり酒やそういったものは飲まなくなり塩辛いものも口にしなくなった。結果として粗食になり食べる量もかなり減った。
「全くな」
 しかしであった。一人で暮らしている彼に対して同じアパートの住人達がしきりに声をかけてきたのであった。
「よお爺さん」
「楽しくやってる?」
 奇しくもアパートに住んでいるのは若い者ばかりだった。男も女もいるが誰もが明るく気さくな者達であった。
「この前さ、バイトでこんな奴がいてな」
「酷いと思わない?彼氏がね」
「ほお、そんなことがあったのか」 
 彼は最初はそういった話にこれといって乗らなかった。だが少しずつだがそういった話も聞くようになっていったのである。
「面白いな、それはまた」
「そうだろう?変わった奴だよな」
「酷いわよね、あいつは」
「全くだ」
 気付けばだった。何時の間にか彼等の相談役になっていた。歩くのに杖が必要なその身体もかえって老人らしく見え彼等に慕われるようになったのだ。
「そんな奴がいるなんてな」
「おかしいったらありゃしねえぜ」
「それでひっぱたいてやったのよ」
 彼等は彼に対して明るく話す。彼もまたその話を聞き続ける。
 生活が変わった。彼等に教えてもらううちに何時しか家事だけでなく料理もできるようになっていた。とはいっても米を研いで炊くことと簡単なおかずを作ることだけだったがそれでも充分であった。
「こうして食う米もいいものだな」
 自分で研いで洗ったその米を食べてみての言葉であった。
「簡単な漬け物さえあればそれでな」
 満足なのだった。今の彼は。
 組長時代のことを思う
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