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イデアの魔王
第三話:奇妙な再開
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よ、などと言われても俺には茶髪メガネの知り合いなどいないし、そもそもがこの三年間ずっと狭苦しい王居(俗語では魔王城と呼ばれているらしい)で暮らして来たのだ、知り合いなどいるはずもない。

 「桜花―、何この人……知り合い?」
 「いや、それが……」

 小望の問いに俺は『全く知らん』と言いそうになって……しかしそこで急に言葉を詰まらせてしまった。
 茶髪にもメガネも間違いなく見覚えはないが、その下の表情にはどこか見覚えがあるような気がしたのだ。 茶髪の男はそんな俺の怪訝な表情を見ながらどこか楽しむようににやにやとしているが、この軽薄な笑いにも見覚えがある。

 「ん、んん……?」

 じーっとメガネ男の顔を凝視しながら数秒考え込んだ後……俺の脳裏に一人の人物が思い浮かんだ。それは俺が魔王となる以前、小学校時代の友人であり、また家を隣にする幼馴染であった男だ。

 「お前……京介か!?」
 「遅えよ!本当に今まで忘れてたのかこの野郎!」

 そうしてメガネ男……京介は俺に向かってラリアットを放った。 小学校時代のラリアットを食らい慣れた俺ならば避ける事もできたのだろうが……長年のブランクで完全に無防備となっていた俺はなすすべもなくその腕に叩き伏せられ、背後のベッドへと投げ出された。

 「な、何で?何でここにいんの?」
 「そりゃこっちの台詞だ、合格者発表ん時は驚いたぜ、まさか偉大なる魔王サマが俺達庶民と同じ学校に通うなんてよ」
 「……自分以外の名前なんて全然気にしてなかったわ、俺」

 無様に転がる俺を俺を見下ろしながら、からかうように笑う京介。 俺はベッドから身を起こすと、何が何だかわからないと言った様子で部屋の片隅に立ち、ぽかんと俺達を見つめている小望に声をかけた。

 「俺の幼馴染だよ、小学校に入る前からずっと一緒だったんだ」
 「へぇ、その娘が例の婚約者(・・・)か」

 そう言って京介は俺の肩越しに小望を見やり、へらりと笑う。 俺と小望は京介の言葉に二人揃って顔を赤くしてしまったが、幸運な事に京介がそこに気付く事はなかった。

 「あーえっと、十六夜小望です……桜花のお友達、なんですよね?」
 「笠松京介(かさまつきょうすけ)な、同学年なんだしタメでいいよ」

 軽く小望に会釈をすると勝手に部屋の椅子をひっぱり出し、そこへ腰かける京介。 うん、この遠慮のえの字も知らない態度は間違いなく京介のそれだ。

 「つーかお前その髪とメガネどうしたんだよ、最早別人だぞ」
 「アレだよ、高校デビュー?」
 「似合ってねーな、特にメガネ」

 京介は「余計なお世話だ!」と言いながら割と本気でラリアットを放ってきたが、俺はさっと体をずらしてそれを避け、逆に奴の尻を蹴っ飛ばしてやった。

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