Mission・In・賽の河原 中編
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規定時間である半刻の内に全ての積石を崩しきれない。迷う時間はないと鬼はすぐさま足を踏み出し、石を崩す。
「ウオォォォォォッ!!」
己を奮い立たせるように足を振り回して積石を次々に崩していく鬼。だが、如何せん量が多すぎる。賽の河原を一斉に田植したかのように大量に用意された未完成の積石はその数故に思うように崩せない。かといって、積みかけの石を放置しては後から子供が更に積み上げてしまう可能性がある。
例えばもしここで一つの積石を壊し損ねたままに通り過ぎるとしよう。そうすればこの積石地帯にまだ残っている子供がすぐさま壊し損ねた石のもとへ走り込んでその積石をさらに高く積み上げるだろう。3段からのスタートとなれば、腕のいい子供ならば次の鬼が来るまでに積石を完成させてしまう。そのような小細工で積石完成を見逃したとあっては鬼の立場が無い。
鬼には非常に多岐にわたる分類が存在する。民間伝承にある粗暴な存在、大和朝廷に敗北した土着の神、神話や仏教の分類に当てはまる者から、人より鬼に転じた存在も珍しくはない。この賽の河原含む三途の川の鬼は、そんな鬼の中でも過去に罪を犯し、その償いのために閻魔のもとで徳を積んでいる存在。簡単に言えば、善に属する鬼の中では最下位に位置している。
ここでしっかりと閻魔に与えられた仕事をこなせば、今よりも上の待遇を望めるのだ。閻魔の仕事は不祥事をした際の罰が非常に厳しく、だからこそ鬼は閻魔のもとを去るために労働に励んでいるのだ。
積石は完成したその時点でどんな経緯があったにせよ地蔵菩薩の管轄となる。だが、経緯に不手際があった場合は鬼の責任になってしまう。情状酌量の余地くらいはくれるが、閻魔に罰されることには変わりがないのだ。こんな大規模なくせに小賢しい細工を処理し損ねて叱責を受けるなどあってはならない。鬼は必死の形相で3段の積石を蹴散らし続けた。
その必死さの甲斐もあってか、40分近くをかけて鬼は何とかその大量の積み石を崩し尽くした。普段はある程度のなだらかさを持っている河原の石が、戦場跡のように不規則に崩れてひどく足場が悪い。崩す途中に何人かの子供が後ろへと走って行ったが、不振向の理のせいで何をしているかまでは分からなかった。だが、恐らくこの積石は子供ほぼ総出で組み上げたものだったのだろう。後続の鬼に同じ手が通用するほど数をそろえられるとは思えない。戦略的には、鬼側の勝利だ。
「ぜぇーっ、ぜぇーっ、ざ・・・ざまあみろガキンチョども!」
積み石崩しに多大なる体力を消費してしまったため、肩で息をして膝に手をついている。かなり弱っているように見えるが、鬼は体力と馬鹿力が自慢なので暫く歩けばすぐに立て直せるだろう。そう思っていた鬼の目に―――悪夢が映った。
そこにあるのは―――更なる積石。
しか
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