相対するは覇王と道化師
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寂寥を孕んだ心を静かに押し込める。
深く……深く海の底に沈ませるように。
凝らしても見えぬ暗闇の中に溶け込ませて、低く……低く、と。
三度、ほんの瞬刻だけの言交は、懐かしき敵意の思い出。
想いを同じくする同志にして、自身に逆らう敵対者。
汝、何を持ちて我が身に歯向かうか。
何故、己を殺さんとするか。
答えを知る術は無く、知るとすれば又しても待つのみ。
この手にあるは麒麟の残骸か、それとも麒麟の幼か。
確かめてくれよう。
汝が望みはなんぞ。
黒き大徳が光源、何が為に使わんや。
我が覇道の為となるか……それとも……
†
昼も漸く過ぎた頃、帰還の凱旋も滞りなく終わり、部屋に積まれているのは、既に見慣れ始めた戦後処理の膨大な竹簡の数々。
到着次第、風から遠征中の出来事で重要なモノを大まかに説明されて、仕事に直ぐに取り掛かる事はせず、まず行ったのは湯浴み。
失恋をした時に髪を切るように、気持ちの切り替えというのはカタチから入る事も大事である。
誰かと共に入っても良かったのだがそんな気分では無く、一人湯を行った華琳は風呂から上がって直ぐに身なりを整え、真桜が工房に籠った為に詠から代わりの報告を受けて、自身の執務室に向かい仕事に取り掛かる……はずだった。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
扉を開けるとそこに居たのは一人の侍女……否、いるはずが無い、華琳が足繁く通う店の給仕であった。
確かに人の気配はしていたが敵意は無かった為に、また、危ない輩ならば執務室に通されるわけがないので当然の如く扉を開けたのだが、さすがの華琳もそんなモノが居るとは予測出来なかった。
白い髪に混ざる藍色は艶やかに、白磁の肌は眩く透き通り、きつい目鼻立ちに揺蕩う紺碧の瞳は人を惹きこむ宵闇。
娘娘でも見た事の無い美しい少女に……誰か、とは聞かなかった。
この出会いが予測出来ておらずとも、華琳は動じない。そんな些細な不可測で覇王は揺らぎはしない。
「店長から新作の届け物でもあるのかしら? まあ、有り得ないでしょうけど」
余裕たっぷり、事も無さげに言った華琳に対して、面白くない、というようにその少女はため息をついた。
無礼な態度である。即座に切って捨てられてもおかしくない程の。ではあっても、その少女をどうこうしようとは、華琳は思わなかった。
「風ちゃんの事、信頼しているようですね。私が、この部屋に入れた理由も予測済みですか」
「私が見た事も無い人物でこの部屋に通されるのは風の判断あっての事、店長ならば使いなど寄越さずに直接訪ねてきて謁見の間で待つだけ。あなたの正体も当ててあげましょうか?」
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