相対するは覇王と道化師
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、夜半を過ぎても飲み続けるお客様も覚えにあります。調理油の“りさいくる”と売り上げの上昇にて、長い時間の営業が出来ておりますゆえ問題は何もありませんよ」
「へぇ、夜分までの会合なんて公孫賛の真面目さが見て取れ――――いえ、失言だったわ。ごめんなさい」
一寸蔭を落とした店長の表情は哀しみ。
白蓮の評価が自分の中でまた上がった事から思わず口を突いて出ただけなのだが、さすがに申し訳なく感じて謝罪を行った。
「こちらから話しを振ったのであなた様に何も非はございません。では、『夜天の間』へご案内致します」
気遣いに感謝しながらも、記憶を失った彼が此処にいるという二つ目の事態も相まって店長は哀しげな声で告げ、己が店の扉を開ける。
聡く気付き申し訳なさを宿す華琳であれど、期待に弾む心は……確かに持っていた。
朔夜のような特異な価値観を持つ子が認め、風も真名を許したほどであっても自分で判断するまでは安易に呑み込めない。
記憶を失っていても、自身が欲しくなるような興味深い何かを持った人物であって欲しいと願って、華琳は娘娘の店内へと足を踏み入れた。
夜天の間に着き、引き戸が開けられ、店長にお礼を一つ言ってゆっくりと入室。
まず目に入ったのは数品の料理。広い夜天の間には現在、いつもより小さな机しか置かれておらず、その机の上に店長が作ったであろう品々が並んでいる。
次に映ったのは……腕を組んでいた待ち人、嘗ての黒き大徳。ほんの少しだけこちらを見やったと思うと、椅子から立ち上がってペコリとお辞儀を一つ。
「あなたが曹孟徳殿ですね。徐晃……徐公明と申します」
「いかにも、私が曹孟徳よ。夜分に呼び出して悪いわね。謁見の間でもよかったのだけれど、此処の方がいいと朔夜が言ったからそうさせて貰ったわ」
「部下の方々を休ませる為、とも思えますが……いえ、失礼いたしました。しかし……私は記憶を無くしたようですが、客分として扱って頂きありがとうございます」
前のように体面をどうにか取り繕った堅苦しい敬語は変わらず、されども研ぎ澄まされた刃のような鋭い視線は無かった。
すっと目を細めて無言の圧力をかけると、交渉の場で不敵に跳ね返していたのが嘘だったかのようにたじろぐのも記憶と違う。
「選んだのはあなたでしょう? 記憶を取り戻す為に劉備軍に戻る、という選択肢もあったはずなのだから。それもまた良し、と私は伝えておいたはず」
落胆、寂寥、憐憫……やはり、記憶を失った秋斗は、自身の求めた黒き大徳ではないのだと強制的に思い知らされる。
自分の心情を悟られないように目線を切り、華琳はゆったりと秋斗の正面に座った。
「その堅苦しいのが素で無いのは知っているから砕いていいわ。飾られた言葉と心で
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