相対するは覇王と道化師
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あの方も同じように」
最後に華琳の事を読み解き、言葉の終わりに甘く……誰もが蕩けたと分かる表情に変わる朔夜。
恋の色かとも思ったが、それだけだとは思えなかった。
心酔は数多も見てきた。自身に対してもそれは向けられてきた。だが……朔夜のその瞳は余りに異質過ぎた。
淡い恋心、だけでは無い。歪な愛情、とは全く違う。敬愛や親愛なども足り得ない。だが、それらよりも深く、濃密にして純粋な想いを持つ。
――これは狂信。この子はあの男に溺れたのか。
自身の才を余すところなく……華琳の為に振るうを望まず、自身と同じように大局を見据えられて且つ、覇王にさえも抗う事の出来るモノを主と認めたのだと理解した。
王佐足りえる軍師というモノは、自分の上に立てるモノをこそ望む。才を捧げ、心を捧げ、主の為にと己が全てを使いたいモノ。明晰な頭脳は使う理由を求め、決して自分が先頭に立ちたいわけでは無いのだ。例え先頭に立てるだけの才や力を持っていようとも、王すら越える先見を持っていようとも。
自分でさえ予想できなかった手を打ってきた男を思い出して、この結果も詮無きことかな、と華琳は素直に思う。心に浮かぶのは『諦』……では無く『認』であるが故に。
「王に対する見解は満足させて貰った。私の事も良く把握している。その上で、あなたは私には仕えない、と言うのね」
一応聞いておく必要がある、などと考える華琳では無く、ズバリと直線的に……仕えなくてもいいと示した。
通常の華琳ならばまず無い事態。己が芯たる誇り、そして煌く才持つモノを、自分のモノにしたいのが覇王曹孟徳なのだから。
「私の天命は秋兄様だけですから」
「……私を今ここで認めたあなたが側に侍りたいと思う程、今の徐公明も才を捧げるに値する、というわけなのね」
「っ! ……その……通りです」
獰猛な猛獣のように、されども恋い焦がれる少女のように、華琳は笑った。
その笑みは、朔夜を震えあがらせるには十分であった。
朔夜は何が華琳を此処まで高ぶらせているのか分からずとも、ただ純粋に、目の前のモノに恐怖し、自分の心に増えた感情に歓喜した。
人の欲望、それがどういったモノを求めようとも恐ろしい……と、朔夜はまた、世界に色を足す。その色が彼女の頭に経験と知識として詰め込まれて、先の世を動かす為のモノとなる。
――風、客人のしつけを怠った罰則は無しにしてあげる。今の徐晃と会う前にこの子と話せて良かった。私は忘れていた……アレは私を前にすると曖昧にぼかし尽くすのが得意な男だった。記憶を失っていても甘い顔で近づいては逃げられる。だから本当のカタチを見極めるなら……追い詰めて引き出すべきなのね。
華琳は己が臣下からの忠告を……そう、受け取った。
「では仲達、あなたに
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