相対するは覇王と道化師
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る必要は無いわ。春蘭……夏候惇がいるから送りは不要よ。じゃあまた、次は城で会いましょう。おやすみ、徐晃」
「分かった。おやすみ、曹操殿」
背を向けて階段まで辿り着き、パタリ、と閉められた戸。
一度だけ、華琳は振り向いて、小さく口の端を吊り上げた。
「お前がなんだろうとどうでもいい事だったわね。その在り方、そして異質な才や知識が……『天の御使い』と呼ばれるに相応しいとしても。覇王曹孟徳は天意を求めず、自ら道を切り拓くのみ。あなたの完成系であった黒麒麟が御使いなら……やはり私に跪くべきよ」
目を切った華琳は階段を下りながら、心に一つ、痛みを感じた。
――雛里……あなたの愛した男は変わらない。あなたの求めた優しい男なのだから……戻る為に側に居てあげなさい。
どちらになるとしても、私が欲しい存在である事には変わりない。なら、あなたも、あの男も、出来る限り幸せになれる道を選びなさい。
あの孤独な道化師が、黒麒麟を演じ始める前に。
†
かちゃり、と洗い立ての白があるべき場所に戻される。
片付けの手伝いも終わり、疲労の色が濃い息を付いた秋斗は、蝋燭の灯されたカウンターの椅子に腰を下ろした。
「如何でしたか?」
悲哀を宿す声で聞く店長を見て、ふるふると首を横に振る。
「やっぱり戻らんな。前の俺が敵対してた曹操殿と相対すれば戻るかも、とも思ったんだが……」
心底残念だ、というように肩を落とす秋斗に、店長はすっと杯を差し出した。
「あなたなら誤魔化してそうおっしゃると思ってましたよ。私が聞きたい事は違う事です」
相変わらずあなたは……というようにため息を一つ。
杯を手に取ってゆらゆらと波打つ酒を見つめる秋斗の表情は悲壮に溢れていた。
「鳳統様の事……ですよ。聞いたのでしょう?」
瞳に黒が渦巻く。彼は空いている片手で胸を抑え付け、僅かに片目を薄く細めた。
「大丈夫……と言っていたがそれは表面上の話だろうな。曹操殿も心痛めているようだから……大丈夫じゃないんだろう」
グイと杯の酒を煽った秋斗。酒瓶を直ぐに上げて、店長は空いた杯に酒を満たす。
「記憶が無いのに心配するというのはあなたらしいと言えばあなたらしいですが……他のお二人よりも、特にゆえゆえ様に対してよりも気に掛けているのは何故なのか、分かりかねますね」
店長が疑問を素直に零すと、秋斗はぎゅうと胸に当てた手を握りしめた。強く、痛みに耐えるように歯を噛みしめながら。
「俺はあの子に笑って欲しい。ゆえゆえも、えーりんも同じように心の底から笑って欲しいが……あの子は二人とは別
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