相対するは覇王と道化師
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この大嘘つきっ
心の内で毒づくも顔には出さず、呆れかえったようにため息を零した。
「そう、ならあなたは彼女達の為に、昔の徐晃に戻ろうと尽力しなさい。ただ……戻った時に今のあなたの記憶が無くなったらどうする?」
記憶喪失など滅多に起こるモノでは無い為に、華琳は起こり得る最悪の事態を突き付けた。
この哀しい、徐晃隊と同じ、滅私の想いを宿した男に。
「その時は俺を縛り付けてくれると助かる。前の俺が何を考えてたか大体分かるからな。確実に曹操殿を裏切るだろ。それだけは……あの子達を悲しませる事だけはもうしたくない。黒麒麟をぶん殴ってやりたいくらいだが……なにせ自分だ。クク、殴ったら痛いだろうなぁ」
おどけながらも其処には怯えがあった。ただし、他人を傷つけるのが怖いという優しい怯え。
記憶を失ってもやはり秋斗の根幹は変わらず、自分の身などよりも他の者達を守りたかった。
自分が消えてしまおうとも、彼は前の自分が戻る事によって雛里や月、詠が幸せになってくれる事を望んだ。
静かに目を瞑り、華琳は口を噤み、厳しい表情で思考に潜った。
――私はまた思い違いをしていた。徐晃は王では無いが王にもなれる矛盾の存在。規律と秩序の大切さを知っていたとは言っても、私の、覇王の現身として成長出来たのは王として成長しきっていない劉備の元に居てこそだった。徐晃という男の在り方は……他人の為だけに存在する願いの器。敢えて名付けるなら……人に願われ謳われるその名は……
「……『天の御使い』というモノをどう思う? 民達から一時的に噂が立って消えたけれど」
数瞬の後、尋ねる声は重く、開いた瞳は冷たい。
いきなり話が変わった事で訝しげに眉を顰めた彼は、思考に潜り、直ぐに己が見解を述べた。
「数多の英雄や有力な為政者にすら期待できないと感じた民達の空想の産物なんじゃないか? 願いのカタチ、とも言えるか。そんなもんが居たとして名が売れた場合、もし負けたら民の希望が失われて大事になる。誰か有力な為政者に侍ったとして、後々そいつが居たから勝てたなんて文句を言われたら面倒くさい事この上ないし、絡み合う事柄から先の世にも歪みと亀裂が生じる。『天の御使い』なんざいらん。この大陸に生きてるモノが自分の力で治めてこそ、長い長い平穏が作れるだろうよ」
何処か憎らしげに、そして自嘲気味に語る。華琳はその姿に違和感を覚えつつも、知性を宿す瞳を向けた。
「徐晃……あなたは『天の――――」
「華琳様ぁ――――っ! お迎えに上がりましたぁ――――っ!」
言い終わらぬ内に甲高い大声が押し寄せてきて華琳の言葉は掻き消された。
いつ息継ぎをしているのかと思うくらい長く、良く通る声は華琳の愛する片腕、春蘭のモノ。
大きくため息を吐
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