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乱世の確率事象改変
相対するは覇王と道化師
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も聞きたいくらいに気に掛けていたから。
 月や詠ではこうはならない。彼自ら気を使って、話題に出そうともしない。月達二人も雛里への想いが枷となって話す事も出来ない。
 華琳が厳しくて、優しかったから出てきただけ。
 そして彼は、彼女達の為に、今の自分は切り捨ててくれと言っている。一人ぼっちで、孤独の中で、嘗ての自分の影を追い続けるから、と。
 投槍にならず、受け入れて背負い、自分を失わず、誰かの為に。
 今の彼は孤独な道化師と言えよう。
 皆を笑顔に出来る主役が帰ってくるまで舞台を繋ぐ……誰にも求められない道化師。
 しかしてその心の在り方は間違いなく、多くの誰かの為に自身を削っていた、黒麒麟であった彼そのモノ。

――これが……徐公明。黒麒麟の大本となった本当の姿。そして……雛里が愛して救いたかった、優しい男。

 雛里は真っ先に今の彼の事を考えて動いていた。
 ひとりぼっちにしないであげてと願ったのは……彼女だけ。
 彼の事を愛しているから、今の彼が幸せに暮らせるように、皆に黒麒麟では無い徐公明を見てくれる事を望んだ。
 しかし……戻ってほしいと誰かが願えば願う程に、今の秋斗は苦しめられる。そして苦しみ故に、切り替わりが強くなり、誤魔化すのだけ上手くなっていく。
 月は今の秋斗が前と変わらないと気付いている為に、彼の苦しみを理解しつつも戻そうとしている。それが救われない今の彼の為になると信じて。
 誰を救いたいか。この状況での選択に……答えは無い。
 ただ、雛里にしても、今の秋斗にしても、何を選ぼうともどちらかが救われない現状が出来上がってしまっていた。

 華琳にしては珍しい事に、思考がピタリと止まっていた。
 小さく喉を鳴らした秋斗からはもう寂しげな声は無く、哀しい素振りも見られない。

「厳しい人かと思ったら悪戯が好きみたいだし、冷たいのかと思ったらそんな顔するし、曹操殿は優しいなぁ」

 彼の気の抜けた言葉を聞いて、やっと思考が正常に回り出した。
 まず、目を細めた。いつものように威圧を含んで。
 次に口の端を吊り上げた。不敵に微笑めば自信が甦る。
 最後に声を出して笑った。そうする事で、秋斗と雛里、二人の内一人への思いやりを切り捨てた。

「……ふふ、あははっ! 面白いわね、徐晃。あなたに自分の欲は無いのかしら?」
「あるさ。あの子達に笑って欲しい」

 口を引き裂き、黒い瞳は真っ直ぐに冷たいアイスブルーの目を穿った。それはまるで、在りし日の黒き大徳のような願い。
 誰かの為になるのなら、自分が救われなくても問題は無いという……黒麒麟の作り上げた全てが持ってしまうモノ。

――私が聞きたい答えとは違うのも分かってるくせにまたぼかして! 『自分』があの子達を幸せにしたいと言え! 
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