相対するは覇王と道化師
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しく感じた。自然体でからからと笑う秋斗と、悲しみを漏らしてしまう秋斗、どちらが本物なのか華琳には区別がつかなかった。
「徐晃……さっきまで普通に、自然に笑っていたのに……どうして雛里への心配は隠そうとしたの?」
つい、口を突いて出てしまった。
華琳は、自身の臣下には平穏な世で幸せになって欲しいが為に、彼の事を知らなければならなかった。
雛里が目一杯幸せになるには秋斗が戻った方がいい。そうでなければ、あまりに雛里が救われない。秋斗にしても、このままでは知らぬ罪と皮を被り続けなければならない。
だから、コロコロと切り替わる彼の事を、明確な理由を本人から聞いてでも知らなければならなかった。
秋斗は……ぎゅっと、自身の胸を握って、幾つも感情が渦巻く瞳を華琳に向けた。
「……はっきり聞かれたんだから本心を話すって約束を守るよ。どうにか普段は考えないように出来始めたけど、泣いてるあの子を思い出す度にやっぱり痛むんだよ……此処がな。でもあの子を本当の意味で笑顔に出来るのは俺じゃない。だって……いつも隣に居てくれるゆえゆえの笑顔も曇らせちまうんだ」
最後に柔らかに微笑んだ。しかし寂しげな声で哀しい笑顔だった。家に置いてきぼりにされた子供のような。
吹き抜ける声の乾きから、華琳は目を見開いた。
零された言葉に表されていない意味を、寂しくて哀しい笑顔の意味を、聡い華琳が気付かぬはずも無い。
彼は……一人ぼっちだった。
人々からは自身の記憶にない姿を重ねられる。
自分に近しかったと言ったモノからも、前の自分と重ねられ、戻ってほしいという想いを向けられる。
新らしく出来た義妹も友も、情報から昔の姿をその影に見ていた。
こうして出会った覇王でさえ、黒麒麟という化け物を望んでいた。
其処に今の秋斗の入り込む余地は……無い。
「だから、さ。俺は戻りたいんだ。もう……あの子達を泣かせたくないんだよ。俺が戻れば皆が幸せになれる、そうだろ?」
苦笑を一つ。彼の声音は軽く、されども重く。秋斗が雛里への心配を隠そうとした理由は……気にしないで皆に笑ってほしかったから。『今の自分』が雛里や月、詠の為に何かをしたくても、それが余計に彼女達を哀しみに落としてしまうから。
風が如何して朔夜と引き合わせたのか、その思惑を華琳は漸く理解した。
警告していたのだ。本物の徐公明を見つけろ、と。記憶を失っていても朔夜が認めたという事実を先に教えて。ただ、朔夜は覇王が今の秋斗に期待したから直接は何も伝えなかったが。
幸いな事に、本物の姿は曝け出された。
それは偶然であり必然。
覇王があまりに楽しげに、彼の治世の姿を呑み込んだから。そして……雛里の事を隠そうとしても隠せない相手で、彼が雛里の事をどうして
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