第一部 学園都市篇
第2章 幻想御手事件
22.Jury・Night:『Howler in the Dark』T
[10/17]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
、見えるのは……ただ。
『――――純喫茶、ダァク・ブラザァフッヅナ〜ゴ』
ただ、狂い笑う月と、姿すらない『虚空の瞳』だけ――――…………
………………
…………
……
人気の絶えた暗い街路に、革靴の足音と粗い息遣いが響く。暗闇に姿は見えないが、まだ少女。迫り来る恐怖から、逃れる為に。
足を止めてはいけない。止めてしまえば、追い付かれる。足を進めてはいけない。進めてしまえば、『それ』を踏んでしまう。
「――――はあっ、はっ、はあ!」
ほんの気紛れの為に歩み出た街路、そこが口を開けた異界だった事に気付いたのは、もう呑み込まれてしまってから。
そう、一歩――――買い物の為に寮から出た瞬間に。このコールタールのような粘性を持つ、煤煙のように濃密な闇、しつこく纏わりついて。
「はっ、はあ、はあっ!」
見える。数十メートル先には、等間隔に並ぶ街灯の明かり。寒々しい、しかし確かな輝き。だがそれも、彼女が光が届く範囲に入る直前には嘲るように明滅し、消えてしまう。もう、走り始めてからずっと。何度、心が折れかけたか。
思わず振り返る。しかしただ、無形の暗闇。だが、間違いない。そこに、『ソレ』は居る。悪夢のように、逃げ切れはしない。
『____________!』
「――――――――!」
ひっ、と息を飲む。低く、獲物の仔兎を追い詰める野犬のように、浅ましい歓喜に吠える声。饐えた悪臭を引き連れて、這いずるようにズル、ズル、と蠢く耳障りな音。何度、心が折れかけたか。
僅かたりとも、距離は離れていない。あれだけ走ったのに――――
「はっ、はあ、はあっ、はあ、はあっ!」
そして、響き続ける足元からの音。腐臭を巻き散らしながら追い縋るように、ガコン、ガコン、と金属音。知らずとも分かる、その死の足音。何度、心が折れかけたか。
常に、彼女の真下から。せせら笑うように、自分の居場所を示して。逃げろ、逃げろ、逃げて見せろと。逃げ惑う獲物を甚振って。
「はあっ、はっ、はあ!」
事前に、『気を付けろ』と言われていた。だから最初に踏まずに済んだ。だが――――この暗がり、この恐怖。一体、何時まで避け続けられる?
元々、運動は苦手なのに。麻痺した時間の感覚は、数分? 数十分? 数時間? もう、覚えていない。ただ、ただ――――
「――――はあ、はあっ……けほっ、はあっ、はっ!」
息を乱し、駆け抜けるのは……決して路地裏ではない。ここは、主要な道路の一つの筈。
だと言うのに、何故――――何故、人の一人すら、車の一台すら|通《
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]
しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ