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Shangri-La...
第一部 学園都市篇
第2章 幻想御手事件
22.Jury・Night:『Howler in the Dark』T
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、見えるのは……ただ。

『――――純喫茶、ダァク・ブラザァフッヅナ〜ゴ』

 ただ、狂い笑う月と、姿すらない『虚空の瞳(ロバ・アル・カリイエ)』だけ――――…………


………………
…………
……


 人気の絶えた暗い街路に、革靴の足音と粗い息遣いが響く。暗闇に姿は見えないが、まだ少女。迫り来る恐怖から、逃れる為に。
 足を止めてはいけない。止めてしまえば、追い付かれる。足を進めてはいけない。進めてしまえば、『それ』を踏んでしまう。

「――――はあっ、はっ、はあ!」

 ほんの気紛れの為に歩み出た街路、そこが口を開けた異界だった事に気付いたのは、もう呑み込まれてしまってから。
 そう、一歩――――買い物の為に寮から出た瞬間に。このコールタールのような粘性を持つ、煤煙のように濃密な闇、しつこく纏わりついて。

「はっ、はあ、はあっ!」

 見える。数十メートル先には、等間隔に並ぶ街灯の明かり。寒々しい、しかし確かな輝き。だがそれも、彼女が光が届く範囲に入る直前には嘲るように明滅し、消えてしまう。もう、走り始めてからずっと。何度、心が折れかけたか。
 思わず振り返る。しかしただ、無形の暗闇。だが、間違いない。そこに、『ソレ』は居る。悪夢のように、逃げ切れはしない。

『____________!』
「――――――――!」

 ひっ、と息を飲む。低く、獲物の仔兎を追い詰める野犬のように、浅ましい歓喜に吠える声。饐えた悪臭を引き連れて、這いずるようにズル、ズル、と蠢く耳障りな音。何度、心が折れかけたか。
 僅かたりとも、距離は離れていない。あれだけ走ったのに――――

「はっ、はあ、はあっ、はあ、はあっ!」

 そして、響き続ける足元からの音。腐臭を巻き散らしながら追い縋るように、ガコン、ガコン、と金属音。知らずとも分かる、その死の足音。何度、心が折れかけたか。
 常に、彼女の真下から。せせら笑うように、自分の居場所を示して。逃げろ、逃げろ、逃げて見せろと。逃げ惑う獲物を甚振って。

「はあっ、はっ、はあ!」

 事前に、『気を付けろ』と言われていた。だから最初に踏まずに済んだ。だが――――この暗がり、この恐怖。一体、何時まで避け続けられる?
 元々、運動は苦手なのに。麻痺した時間の感覚は、数分? 数十分? 数時間? もう、覚えていない。ただ、ただ――――

「――――はあ、はあっ……けほっ、はあっ、はっ!」

 息を乱し、駆け抜けるのは……決して路地裏ではない。ここは、主要な道路の一つの筈。
 だと言うのに、何故――――()()()()()()()()()()()()()()|通《
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