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王道を走れば:幻想にて
第三章、その4の3:サバイバル、オンボート
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 剣呑な鉄同士がぶつかり合う高調子が、埃舞う古びれた建物の中に鳴り響く。一方のそれは空気を紙の如く裂く鋭き一閃。もう一方は膂力任せの強靭なる一閃。鋭きものもまた膂力に凄まじきものであったが、後者のそれに圧されて俄かに弾かれる。後者の剣を振るった者、アダンも腕に大きな震動を受けて歯を食い縛った。

「ぃぃっ!おらぁっ!」

 而して躊躇う余地もなく剣を更に振りぬく。袈裟懸けの一刀を対峙する猛者、熊美は素早く返した剣で防ぎ、床に散らばる破砕した剣の破片を踏みつけながら後退する。無論の事近付いてくるアダンに熊美は、ひょいとばかりに剣を振るった。予備動作の全く見えぬ剣にアダンは慌てて足を止め、身をそらしてそれを避ける。熊美がそれに付け入るように接近し、肩口から撫で斬りにしようと切り下ろす。アダンはそれを剣で防ぎ様、不意に違和感を感じてそれを手放し様に勢い良く後退する。足を引くのと同時に剣に皹が入って瞬く間に大きな欠片が毀れた。
 アダンは後ずさりしながら近くの武器棚から剣を奪い取ろうとして、猛進してくる羆の殺気に手を引っ込めた。瞬間、手を伸ばしかけた武器棚が真っ二つに裁断される。アダンは素早く踵を返し、近くにあるキャビネットに足をかけて飛び越え、裏手にある武器棚の剣を今度こそ掴み取った。
 キャビネットを回り込んできた熊美はそれに向かおうとするが、アダンは用無しとなった武器棚を掴むと遠慮なく熊美に投げつけた。

「しぃあああっ!!」
「むっ!」

 熊美は飛んでくる凶刃を剣で弾き、左の裏拳で武器棚を粉砕する。破砕する木片に目を窄めつつ、螺旋階段へと逃走するアダンへと迫っていく。
 走力だけならば、その老いに関わらず威勢の良い体力を誇る熊美が勝る。熊美は疾駆し、ジャンプで螺旋階段の手摺へと手をかけたアダンの足を狙って、大きな横振りの一刀を薙ぐ。凄まじき速さの一刀は而して手摺の柱により俄かに速度を落とし、紙一重というタイミングでアダンの足を外した。熊美は無言で不満げな睨みを利かせる。

(邪魔だなぁっ!)
「あ、あぶねぇっ!?」

 アダンは思わずそう零しつつ階段を登り切る。熊美もすぐさまにそれを追わんと螺旋階段を登りつつ、一階部分をちらりと見やる。先までの闘争により、武器棚の大半は損壊し、宝物を仕舞い込んだキャビネットも大きな傷をつけてばかりだ。今一階に付しているのは兵達の身体に加え、陶芸品の残骸に凶刃の破片、調度品の欠片、そしてずたぼろとなったフローリングだけであった。
 一階フロアの隅にて縮こまっていたパウリナは嵐が僅かに遠ざかった事に、安堵の息を漏らす。
 
「・・・ふうぅっ・・・こわいなぁ・・・」

 突っ伏す兵達が時折身動ぎするのを見遣りる。息もしているようだし、取り敢えずは死亡を心配しなくてもいいだろう
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