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【短編集】現実だってファンタジー
俺馴? 外伝2-2 [R-15?]
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がおかしいの分かってたのに……駄目な女だ、私!さざめくんの隣にいたのに!何で気付けなかったの……っ!」

――声を押し殺して泣くその姿の、なんと美しくも痛ましい事か。
必要以上に自分を責めて、変なところで考えすぎる。そう、いりこはそんな一面を持った人間ではなかったか。そう、記憶のままだ。俺の記憶と一致するいりこの側面だ。やはりコイツは俺の知っているいりこなのだ。

彼女が悪いかと言われれば、俺は主観客観の両方から見て違うと思う。自分の調子が悪いかどうかなど、本当は自分で気付かなければいけない事だ。それに、俺も俺で考え事は後に回せば授業中にこんなことにならなかった。目の前で自責の念に駆られる彼女に、責めを負うべき謂れなど無い筈だ。

ぷつっ、と彼女の歯が唇の表面を破って血液がにじみ出る。
俺は咄嗟に、彼女をこれ以上放っておいてはいけないと思った。このまま放っておけば、彼女はきっと負うべきでない罪悪感を抱え込み壊れてしまう。それほどに目の前の女が脆く、儚い存在に思えたのだ。
考えも無しにいりこの首筋にやさしく手を当てる。はっとして俺の顔を見上げたいりこの背中までその手を伸ばし、もう一方の手で彼女の身体を包み込んだ。なだめるように後ろ髪をそっと撫でながら、耳元に「大丈夫だ」と囁いた。

「お前がそばにいればそれで大丈夫だ」
「さざめくん……」
「――先生、すいませんが、ちょっと保健室に行かせてもらいます」

呆気にとられていった数学教師は、しどろもどろになりながらも許可してくれた。
俺は、まるで親とはぐれた子供のようにしがみつくいりこに寄り添いながら、保険室へと足を運んだ。さっきまで拒絶しかけていた女の手を引くことに、抵抗や躊躇いを覚えない。それがどういう事か理解せずに。

少しずつ。
融けるように。
引きずり込まれるように。

さざめの心はいりこの方へと傾いてゆく。まるで絡め取られるように。



 = =


 
微かな消毒液の臭いが鼻をくすぐる、学校に似つかわしくないベッドが並ぶ部屋。清潔感のある白い寝具とカーテン、そしてその奥に置かれた棚には薬物のビンやコットン、ガーゼなどの簡易な民間医療道具が仕舞われている。そんな場所を人は保健室と呼ぶ。
俺達が目指したのも、実際に足を踏み入れたのも、まさにそこだった

保健室には誰もいなかった。どうやら席を外しているらしい。別段珍しい事でもないため、俺はそのままいりこを椅子に座らせた。本当なら俺がベッドで寝るべき状況なのかもしれない。事実、いりこは何故自分が座らされる側なのかという戸惑いの目線を向けたが、唇の怪我が先だと言ったらあっさり従った。

「ごめんね……私が守らなきゃいけないのに――」
「黙って座ってろ。傷になるまで噛みやがって、ええと……
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