第六話
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上を向いていた視線が声の方を向く。
頬を伝っていたそれが流れを変え、雫となり足元へと落ちていく。
朱い斑点がポツリポツリと数を増やしていく。
「目を何かにぶつけたのか」
血はアイシャの右眼から流れていた。
額から頬へ眼を割るように薄らと走った疵と眼から滲み出て筋を作っていた。
ジャージの裾がそれを吸い、黒い染みができている。
反応がないアイシャの傷を見るべく生徒は手を伸ばす。だがその手は眼を覆う髪に触れる前に叩き落される。
不躾だったかと生徒は手を引っ込める。
「血が出ているから止めたほうがいい」
「……こんなの、直ぐに止まる」
事実、足元に出来る斑は数を減らしていた。
ハンカチを出し乱暴にアイシャは頬を拭う。
「そ、そうか。だが医務室に行ったほうが良いと思うぞ。案内して――」
「分かるからいいよ。一人で行く」
踵を返しアイシャは生徒の横を通る。
その背に疑問の声が飛び足が止まる。
「何かにぶつけたのなら教えて貰えると助かる。故障箇所でもあるなら直さないといけないんだ」
故障箇所は今からできる。
だが、それをいう必要はない。
「ぶつけたわけじゃない。古傷みたいなものだから」
「ならいい。それと何故、こんな場所に居たんだ」
「散歩」
首を捻りアイシャが見ていた場所を生徒は眺める。
改めて背を向けアイシャは歩き出す。
医務室はそれなりの繁盛をしていた。
緊急事態によるストレスや都震の際に怪我をした者たちだろう。並べられたベッドも半分近くが埋まっている。
その内の一つに知った顔を見つけアイシャは近づいていく。
「どうしたのミィ」
「アイちゃんか。私は付き添いだよ」
ベッド横の椅子に座るミィフィが答える。
カーテンを少し開け覗き込むとベッドには二人の共通の友人である少女が眠っていた。
頭まで布団を被っている。
「倒れたの?」
「うん。異常事態と、後は人が多かったからそれもかな。ストレスだってさ」
生来の気の弱さと、不運な事柄が原因で少女は偶にこういう風に倒れる。稀にあるいつものことだ。
普段ならばナルキもいるのだが彼女は武芸者だ。ミィフィがずっと付き添っていたのだろう。
「アイちゃんはどうして……ああ」
アイシャの目元を見てミィフィは納得する。
それも稀にあるいつもの事だった。
「古傷だっけ。また開いたんだ」
「うん。でももう止まったから平気」
「原因とかわからないけど大変だね。服も汚れちゃってるし。というか何故ジャージ」
既に血は止まっていた。何度もあったことだ。理由も分かっている。
アイシャは傷をわざわざ医療科の生徒に見せる気はなかった。あの場
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