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一歩ずつ
6部分:第六章

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第六章

「本当に」
「けれどさ」
 だがレイラニはその彼女に対してまた言う。
「外に出たらね」
「出たら?」
「楽しいわよ」
 微笑んでの言葉であった。
「結構ね」
「楽しいって」
「だからとりあえず外に出よう」
 また雪に対して告げたのだった。
「外にね」
「外に出て何かあるの?」
「だから楽しいわよ」
 彼女が言うのは多分にこの一点であった。他には何もないと言ってもいい位だ。それだけまずは外に出て楽しむことを誘うのであった。
「いいわね、それで」
「私はまだ」
「やっぱり嫌なの」
「外に出たって何もないわよ」
 湯舟の中で俯いてまた言ったことだった。
「本当に。何もないから」
「またそう言わずにね」
「外に?」
「そう、外に」 
 意地であるかの様にレイラニも言ってくる。
「どうかしら」
「それで何処に行くの?」
「それは出てからね」
 そのことについてはレイラニも答えなかった。られなかったと言ってもいい。
「決めるし」
「外に出てから」
「それでどうかしら」
「どうって」
「雪ちゃんの好きな場所でいいから」
「わかったわ」
 そこまで言うのなら、だった。むしろ最近雪にそこまで言う人間はいなかった。話をするのも実際のところ久し振りのことであった。
 人と会うのもだ。レイラニのそのいきなりの行動に戸惑ってさえいた。その中でのやり取りであったのである。
 そのレイラニに対して告げて。さらに言うのであった。
「明日よね」
「そうよ、明日」
 レイラニは身体の泡を落としていた。丁度身体を洗い終えたのである。
 そうして次は髪の毛をほどいていた。そこから洗おうとしている。
「明日ね」
「じゃあ明日ね」
「わかったわ」
 こうしてレイラニの誘いに乗って外に出ることになった。次の日の朝である。いつもの様にベッドの上で蹲ったまま寝ていた彼女に扉の向こうから声がかかってきた。
「雪ちゃん」
「レイちゃん?」
「行こう」
 明るい声で彼女に声をかけてきたのである。
「今からね」
「行くのね」
「もう着替えた?」
「御免、まだ」
 こう彼女に返した。実際に今まで寝ていた。それで何かをできる筈もなかった。
「それはね」
「じゃあ用意して」
「うん」
 実はまだ戸惑っている。しかしそれよりも先にであった。レイラニは言ってきたのである。
「待ってるから」
「待ってくれるの?」
「だって一緒に行くんでしょ?」
 扉の向こうで笑っているのがわかる。声だけで。
「じゃあ当然じゃない」
「そう。だからなの」
「だから待ってるから」
 また言ってきたレイラニだった。
「ここでね」
「有り難う」
 この言葉を出したのも実際に久し振りであった。

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