暁 〜小説投稿サイト〜
ストライク・ザ・ブラッド 〜神なる名を持つ吸血鬼〜
観測者たちの宴篇
25.神意の妹
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が吼えた。彼女の右手が陽炎のように霞んで、真紅の鞭がヴァトラーの眷獣に絡みつく。

「なるほど……キミが操れるのは人間だけじゃないというわけか……」

 眷獣の制御を奪われたのにヴァトラーは笑っている。その笑みは満足するような危険な笑みだ。

「思い知れ、蛇遣い──“毒針たち(アグイホン)”よ!」

 彼女の頭上に、真紅の蜂の群れが出現する。数にして、五百、千──空一面を埋め尽くすほどの膨大な群れだ。

「はははは、いいね。実にいい。それでこそ、惨劇の歌姫だ!」

 ヴァトラーが晴れやかに哄笑する。
 彼のもとへと、真紅の蜂たちが押し寄せる。それは巨大な炎がヴァトラーを焼き尽くそうとしているように見えた。絶対に逃れられようのない無数の眷獣のよる一斉攻撃。
 だが、そのときヴァトラーの頭上には、漆黒の渦のようなものが音もなく出現していた。

「──“毒針たち(アグイホン)”!?」

 ジリオラが、驚愕に歪める。
 真紅の蜂たちが、青年貴族の身体に辿り着く前に次々と姿を消していく。
 ヴァトラーの頭上に浮かぶ漆黒の渦が、蜂たちを片っ端から呑みこんでいるのだ。

「眷獣……!? まさか!?」

 その渦の正体が、絡み合いもつれ合う何千もの蛇の集合体だと、果たしてジリオラは気づいただろうか。
 ヴァトラーが召喚した新たな眷獣は、千の頭を持つ蛇の眷獣──
 数百匹の蜂の群れを食らい尽くすために、ヴァトラーはそれを上回る蛇を召喚してみせたのだ。

「このボクに、こいつを召喚させるほどの敵には久々に遭えたよ、ジリオラ・ギラルティ」

 ヴァトラーは満足そうに呟いた。彼の碧眼は真紅に染まり、彼の唇からは長大な牙がのぞいている。
 追い詰められたジリオラが、ヴァトラー本人を目掛けて真紅の鞭を放った。だが、その鞭もヴァトラーの眷獣に捕食されていく。
 鞭だけでなく、それを握るジリオラの腕までも喰らっていく。

「ああああああああああ──っ!」

 ジリオラの絶叫が響く。
 蛇たちは彼女へと次々と襲いかかる。

「い……いや……やめて……助け……て……!」

 ジリオラは必死に抵抗しヴァトラーから逃れようとする。

「…………」

 浅葱はサナの目を覆った。これ以上の惨劇を、幼い彼女に見せるわけにはいかない。
 この青年貴族は、浅葱たちを救いに来たわけではなかった。彼は戦いを望んできただけだった。
 特区警備隊(アイランド・ガード)は壊滅状態。彼らの攻撃を受け続けたアスタルテももう限界だ。ジリオラの眷獣から浅葱とサナを守っていた唯も体力切れだ。浅葱たちを救える者はもういない──

 誰か助けて。あの男を止めて。
 サナの身体を抱きしめたまま、浅葱が弱音を吐きそうになる。

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