第十二章 妖精達の休日
第三話 お友達
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体が回転し、視界が回る中、竜騎士は“フライ”の呪文を唱えようとするが、魔力が限界であることや混乱する思考により、上手く呪文が唱えられないでいた。回る視界の中、竜騎士の目が自分の風竜の姿を捉えた。咄嗟に自分の騎竜の名を叫び、自分を拾わせようとする。己を呼ぶ主の声に気付いた風竜は、素早く身を翻すと自身の主に向かって行く。
しかし、甲冑によりかなりの重量となっている竜騎士の落下速度は、風竜の下降速度でも追いつくにも難しい程の速度であった。
「ッ―――早くしろっ!」
手を伸ばし、自分に向かっていく飛んでくる風竜へと意識が向けているばかりであることから、竜騎士の思考から自分がどれだけ地上に迫っているかが外れていた。
「よしっ―――!」
そのため、追いついた風竜の背に何とか跨る事が成功した時、やっと下を見て、初めて自分がどれくらいの高度にいるのか気付き。
「―――ぁ」
もう手遅れである事を知った。
呆けた声を漏らした竜騎士の視界に、もやはどうする事も出来ないまでの距離に近づいた地面の姿が映る。滑空するように地面へと落ちていく風竜は、主を背に乗せると同時に急いで羽ばたき速度を落とそうとするが、それも焼け石に水であることは明らかであった。間違いなく着地ではなく墜落となるだろう。風竜が落ちていく先は魔法学院。それも先程までギーシュたちと空中装甲騎士団が戦っていた庭に向かっていた。そこには未だ状況が理解できないのか、落ちてくる風竜を呆然と立ち尽くし見上げる生徒たちの姿がある。更に落下地点の直ぐ傍には、空中装甲騎士団の主たるルクセンホルフ大公国の王女であるベアトリスの姿があった。他の生徒同様、ベアトリスも近づいてくる、自分目掛け落ちてくる風竜の姿を目にしながらも、逃げようとはしないでいた。否、ただ何が起きているのか理解出来ず、動けずにいるのだろう。
避けられない衝突を前に、風竜に跨る竜騎士の顔に絶望が宿る。
地面が視界一杯に広がり―――衝撃が全身を叩く。
一瞬たりとも耐える事も出来ず、身体が反動で風竜から離れる。その時にはもう、風竜が地面を掘り起こし舞い上げた土煙よりも暗いの闇の中に、竜騎士の意識は落ちてしまっていた。
風竜は回転し、地面をガリガリと大きく抉りながら進んでいく。その進行方向にはベアトリスの姿があった。その背後には、十人以上の生徒たちの姿もある。遮るものなど何もなかった。誰もが逃げる素振りを見せるどころか、その場から微動だにしない。ただ目を大きく見開き振動で身体を震わせているだけ。
離れた場所からそれを見ていた生徒たちの目に、数秒後起きるだろう悲劇の様子が生々しく浮かぶ。轟音と振動に混じり、女子生徒の甲高い悲鳴が次々と上がっていく。
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