第三話
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すると、次に脳は、背後の、なにやら必死に笑いをこらえてているらしい震え声の処理を開始した。
「――そ、それにしたんだ……《シルバーダガー》だっけ……次の層でしか売ってなかったはずだけど……か、変わったんだね……ぷッ」
ハッと我に返る。と同時に押し寄せてきた羞恥と敗北感をかみ殺すと、俺はふと、いつの間にか左手に重量感が発生していたことに気づき、その根源へ目をやった。
《シルバーダガー》、その名にふさわしい短剣だった。
他のモノと比べれば少しばかり大きな銀色の柄と、単純ながら美しい装飾が施された鞘。抜いてみると、家にある包丁とは全く違う、本物よりも本物らしい輝きを放つ刃が俺の視界に現れた。
いつも俺には厳しい神様だったが、今回ばかりは笑顔を向けてくれたようだ。剣なんてどれも似合わないと思っていたが、この刃はその見た目も重ささえも心地いい。『俺にはこれがベストだったのだ』と言い切れるほど。
「ほんと、これが仮想だなんてな……」
「ふふ、そうでしょ。あたしも初めてここに入ったときはおんなじこと言ってたよ」
ぽつりと口から洩れた呟きに、シーラが純粋に楽しげな笑みを浮かべ、空を仰ぎ見る。ベータテストの時を思い返しているのだろうが、それに落ちた俺には歯がゆくて仕方がない。
初めて見る類のシーラの笑顔に一瞬どきりとしたのを頭をぶんぶん振って誤魔化すと、計ったように物思いの旅から帰ってきたシーラが、すっかりいつもの調子に戻り、言った。
「それじゃ、武器も決まったことだし、さっそく狩り、行っちゃう?」
「ああ、そうだな。けっこう時間使っちまったし、いそがねーと」
「それほとんどユウのせいだと思うんだけど……」
なんていう攻守逆転の軽口を叩きあい、最後にシーラが、武器は装備しないと意味ないよという某有名RPGお決まりの台詞で俺の左手を横目にすると、くるりと回れ右をし、昼間なのにやたら薄暗い煉瓦の道へと歩みを始めた。
あまりに怪しい道、それゆえに俺は通ったこともないはずだが、このゲームを知り尽くしたシーラは迷いなくそこを選んだのだ。出口だという確信があるのだろう。行き止まりの道こそが正解というお約束もありそうだ。
やっとここから抜け出せる!と、あまりの嬉しさに思わず顔が歪みそうなのをなんとか自重しながら、俺は大急ぎでウインドウを操作し、短剣を装備状態に変更した。と同時に左手の短剣が一つ瞬いて消え、代わりに腰に重量感が追加されたのを感じ取ると、少しばかり離れてしまったシーラの背中を追うため、一歩踏み出した。
が、その時、
「なんだようキリトぉ!人いるじゃねえか」
「ホントだ。ここ知ってるやつはけっこう少ないはずなんだけどなあ」
突然、後ろ方向から声が聞こえた。
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