第九章
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第九章
「御前には絵のセンスはある」
「ありますか」
「僕の弟子だよ。ない筈がないだろう」
「そう言って下さって有り難いですけれど」
このことは感謝する。しかしわからないものはわからないままだった。
「だからですか」
「そう、絶対にわかることだ」
今度は太鼓判を押してきた。
「絶対にな。しかも全部だ」
「全部ですか」
「少なくとも僕はもうわかった」
見ればその笑顔は楽しげなものだけではなかった。晴れ晴れとさえしていた。まるでもやが完全に消え去ったかのように。明らかにそうした顔であった。
「僕はね」
「先生はですか」
「そして今度は御前がわかる番だよ」
そしてこう言うのである。
「さあ。わかったら」
「後ろをですか」
「向いてみるんだ」
それだけでいいと言わんばかりであった。
「すぐに」
「わかりました。じゃあ」
頷き後ろを振り向く。すると。本当に全てわかってしまった。その瞬間で。
「あ・・・・・・」
「わかったな」
「はい」
その後ろを振り向いたまま師匠の言葉に頷く。
「わかりました」
「それも全部だな」
「ええ、よくわかりました」
答えながら顔を前に戻す。
「そういうことだったんですか」
「表と裏」
ジョバンニは顔を戻してきたミショネに対して告げた。
「そういうことさ」
「成程、そうだったんですか」
「保育園で見た時は正直驚いたよ」
声のトーンを少し落としてミショネに話す。
「何でここにいるんだってね」
「雰囲気が全然違いますね」
「保育園では聖女だったな」
「ええ」
それはミショネも全く同じものを感じていた。あの場所ではまさにそうだった。
「しかしここでは」
「娼婦ですか」
「前にも言ったかな」
ここで二人のテーブルにワインが届けられた。早速コルクが抜かれグラスに注ぎ込まれる。コポコポと音を立て赤い泡が見える。あのランブルスコである。
「二つの顔があるってね」
「人にはですか」
「そう、特に女には」
「女の人はですか」
「実はな」
ふとここでばつの悪い顔を見せてミショネに言ってきた。
「忘れていた」
「忘れていたんですか」
「女心は常に忘れない」
また妙な言葉を出してきた。
「それがイタリア男の心遣いだというのにな。情けない限りだ」
「そんな心遣いあったんですか?」
「イタリア男の基本じゃないか」
「基本だったんですか、それって」
「そうだ。言わなかったかい?」
「初耳ですよ」
顔を思いきりいぶかしめさせての返答だった。
「そんなのって」
「じゃあ今それをわかったわけだな」
「ええ、まあ」
「それならそれでいい。それでだ」
「はい」
「女心は常に忘れない」
またこのことをミシ
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