詠い霞むは月下にて
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て、噂にもなった盛大な一騎打ちで負けた事による無力感が無ければ呑み込み切る事は出来なかっただろう。
一目でも会えたらいいかもしれないけど、単純に会いになんて行けるわけが無い。せめて袁家だけでも滅ぼさない限りは。
「憎しみの禍根は根強いから、恋とねねは純粋なだけに恐ろしいわね」
ポツリと零す詠ちゃんの瞳は、自分の事を思い出してか後悔の色。
彼が壊れそうだった原因の一つは怨嗟の声だろう。詠ちゃんは彼にそれを向けてしまった事を後悔してる。
私も、他者からの怨嗟の声が頭に溢れたから、彼が壊れる理由も理解出来る。
アレは怖い。自責から来る怨嗟の声は恐ろしい。内から心を引き裂く刃は、人を簡単に壊してしまえる。
思考に潜っていると霞さんが哀しみに暮れる表情で口を開いた。
「……すまん、ウチ――」
「いいんです霞さん。全ては私の力が足りなったせいです。あなたが背負うことではありません。それにあなたは戦場を駆ける神速でこそあなたらしいです。きっと華雄さんも、そんなあなたじゃないと許してくれませんよ?」
謝らないで欲しくて言うと、霞さんは目を見開いてフルフルと震えだした。
「……っ……あぁ……あああっ……くぅっ」
抑え込もうとして、それでも泣き崩れた。彼女は……苦しんでいたんだろう。
一人裏切り者と言われてもおかしくない状況に立ってしまって、彼が曖昧に生存の事実を伝えたから何処にいるかも分からず、一緒に居たいのに一緒に入れない袋小路と、友達から怨まれてるという事実に苦しんでいたんだ。
あと多分もう一つ。霞さんは華雄さんの事を悔いている。だから私の言葉が欲しかった。華雄さんの主であった私から直接言われたかったんだ。
女の人なのに男らしい豪快な笑い方で、きっと華雄さんなら霞さんに戦えと言った。我らが主『董卓』の無念を、神速の好きなように生きて必ず晴らせ、と。
泣き啜る霞さんの背をゆっくりと撫でた。詠ちゃんも、彼女の頭を優しく撫でた。
「辛い思いさせてごめん。でも、これからは一緒に居られるから。もう一人じゃないから、ね?」
そこで気づく。詠ちゃんはそこも読み取れたのか。
何処か一人で飄々としてて、強い所ばかり見えてたことが多かったから分からなかったけど、霞さんも寂しかったんだ。
私には詠ちゃんが居た。でも霞さんには誰も傍に居なかった。
詠ちゃんのおかげで誰かが隣に居ることに慣れすぎて、私はそんな大切な事にさえ気づけなかったなんて。
――私もまだまだ人の気持ちを読み取る力が足りないなぁ。
もっと誰かを支えたくて、私に出来ることを頑張って行こうと心を高め、霞さんが泣き止むまで私達は撫で続けた。
幾分か後、泣き止んだ霞さんは小さく笑う。
「みっと
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