詠い霞むは月下にて
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取り入れる為に。もし、彼だけが曹操軍に所属していたとしても同じこと。きっと内部で霞さんと親交を深めて、裏切らせるように画策しただろう。
そういう人なのだ。彼は、黒麒麟という黒い大徳は。
白蓮さんの事にしても、出来る限り殺さずに生かす為に動き、本当にどうしても足りない時だけその手に掛ける……そういった覚悟を持っていた。
先の世の平穏のために、自身の思い描く世界の為に、全てを利用して動く人。
でも……そうなった時、きっと彼はこう言う。
『俺を信じてくれるお前達を信じる。だから……お前達の大切な友を奪ってくるよ』
心痛めながら、以前のように謝りもせず、徐晃隊の屍を積み上げて、私達の平穏も取り戻せるようにと。
そんな未来はもう来ないから、ほっと安堵している自分が居た。
もうお互いに傷つかない。否、傷つけさせない。絶対に彼を戻して、この場所から離れさせないようにする。
思わず漏れ出た吐息を聞いてか、詠ちゃんから体を離した霞さんが私の方へと振り向いた。
「なぁ、ホンマに徐晃は記憶を失っとるんか? ウチな、洛陽で月と詠の無事をあいつに教えてもろてたんやけど、ちゃんとお礼言うてへんねん……」
ズキリと、胸が大きく痛んだ。
思い出す。優しい笑顔を、哀しい瞳を、私達に生きてと願って、零れた涙の跡を。
霞さんのことも思って、彼は私達の生存を伝えてくれてた。相変わらず優しい人。戦が無ければ、冷たくなんか絶対にならない人。生き残った人の平穏の為に、出来る限り最大限の優しさを振りまく人。
「はぁ!? あのバカ、そんな危ないことしてたの!?」
「いや、さすがに直接とちゃうで? あん時は華琳も居ったし。なんやったかなぁ……『月は地平に落ちず、詩が詠めるくらい綺麗に輝いてるから今夜は酒が美味いだろう』やったっけな」
「……気障ったらしい言い方しちゃって。ふふ、でも秋斗らしいぼかし方ね。お酒がおいしいなんて戦が終わって言う言葉じゃないけど」
「ウチが酒好きなんも知っとったみたいやからな」
「あー、洛陽で飲み歩いてたの噂になってたから、徐晃隊を纏めてた秋斗の耳にそれが入ってても仕方ないか」
一つ苦笑を漏らし、詠ちゃんは遠い目で宙を見上げた。
「秋斗――徐晃は間違いなく記憶を失ってるわ。だって雛里のことも分からないなんて有り得ない。記憶があったとしても、そんな性質の悪い手を使うような奴じゃないし、ボク達ならまだしも、雛里まで騙せるわけない」
寂しそうな声。
軍師として、詠ちゃんは秋斗さんが嘘をついてる可能性を示した。結論は否定。私もそれには同意だった。
私達や雛里ちゃんにまで嘘をついて、桃香さんの為に動けるわけが無い。そんなことをしてたら彼の瞳は必ず濁ってる。自責と、壊れる寸前の絶望から
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