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聖女
第三章
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 そしてケーキの中から一つを選んだ。
「これにしよう」
「フルーツケーキですか」
「果物に限る」
 笑顔で言うジョバンニであった。
「デザートならばな」
「フルーツ自体もありますが?」
「いや、今食べたいのはイタリアの料理だ」
 しかしミショネにこう返す。
「イタリアのものを料理したな」
「だからですか」
「ああ。じゃあミショネ」
「はい」
「御前は何にするんだ?」
「じゃあ僕はですね」
 師匠の言葉を受けて彼はまたメニューを見る。そしてそこからあるものを指差すのだった。それは。
「これにします」
「苺のタルトか」16
「これでいいですよね」
「他人の食べるものにケチをつける趣味はない」
 こう返すジョバンニだった。
「別にな」
「それも粋というやつですね」
「僕が御前に教えるのは絵だけじゃないだろ?」
 笑ってこう言うジョバンニだった。
「酒に美女に遊びに。それに」
「粋ですか」
「その中で粋が一番大きい」
 ここをさらに強調するのだった。
「とりわけな。だから」
「粋を身に着けてですか」
「高校を卒業したらどうするんだ?」
「美術大学に進むつもりです」
 画家を志す人間としては普通の進路の選択であった。
「そのつもりですけれど」
「だったら余計に粋を身に着けるんだな」
「美術大学に行くなら余計にですか」
「まあそれはおいおいな。少しずつ教えていくさ」
「御願いします」
「粋は奥が深い」
 にんまりと笑っての言葉であった。
「絵を描けるのも粋がわかってるからだからな」
「そういうことですか」
「そうさ。さて」
 ここでワインとパスタが来た。
「食べるか。いいな」
「わかりました。それじゃあ」
「バッカスとアフロディーテに乾杯だ」
 言葉に出したのはキリストの神ではなくギリシアの神々だった。
「まずはその二人にだ」
「はい。それでは僕も」
 そしてミショネもそれに従う。その後でちゃんとキリストの神を讃えるのはやはりカトリックのお膝元だけのことはった。そうして美酒と美食を楽しみながら。最後のデザートが届いたところでジョバンニが不意にミショネに対して言ってきたのであった。

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