鼠の奇跡
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んでもねえ空襲だったそうじゃねえか」
「まあな」
「確かにあれは酷かったな」
どうやらこの二人もあの空襲に遭っているようである。
「けれどな、おいら達は助かったぜ」
「運がよかったんだな。俺のところは駄目だったが」
「そうともばかり限らないぜ」
「二人の死体は誰だかわからなかったんじゃないのかい?炭みたいになっていたから」
「それでもわかるだろ」
彼はそう答えた。
「そっからいなくなっちまったんだからな。死んでると思うのが普通だろ?」
「まあな」
二人はそれには答えはした。
「けれど実際のところはわからないだろ?」
「わかるよ」
梶原は憮然としてそう言った。
「死んだってな。じゃあ死んでなかったらどうしてるんだよ」
「生きてるんだよ」
二人はそう答えた。
「有り難いね」
彼はそれを聞いてまた口の端を歪めて笑った。
「俺を励ましてくれてるのかい?もしかしたら生きてるって。有り難いけれどな」
「いや、そうじゃないよ」
しかし二人はそれを否定した。
「おいら達だって伊達にこうしてあんたと話をしてるわけじゃないしな」
「ちゃんと用事があって来たんだ」
「その用事が俺を励ますことじゃないのか?」
「だから違うって」
彼等はそれを否定した。
「どうしてそうとらえるんだよ。もっと素直にとらえてくれよ」
「そんなんだと何にも見えないぜ」
「もう見えなくたっていいさ」
彼は酒に酔った顔でそう答えた。
「どうせ今の俺は金だけだしな。それさえあればいいのさ」
「嘘つけ」
だが二人はその言葉にくってかかった。
「そんなこと全然思っちゃいないだろうが」
「拗ねて何になるっていうんだ」
「じゃあ聞くけどな」
梶原もむきになってきた。
「女房や子供が生きているのかよ。生きていたら会ってみたいもんだな」
「会いたいのかい?」
「そりゃ」
彼は戸惑いながらも答えた。
「会いたくない筈がないだろ。生きているんならな」
「わかったよ」
二人はそれを聞いて頷いた。
「それじゃあね」
「ああ」
「明日東京駅の方へ行ってみたらいいよ」
「東京駅か」
「場所は知ってるよね」
「おい、馬鹿にするなよ」
そう言葉を返して笑った。
「俺は東京生まれの東京育ちだぜ。それも代々の江戸っ子だ」
「そうだったの」
「ここのことなら何でも知ってるんだよ。東京駅か。そんなのすぐにでも行けらあ」
「じゃあ安心だね」
「東京のことならおめえさん達に言われるまでもねえんだよ。わかったか」
「うん、わかった」
「明日だよ。時間はいいね」
「ああ、わかった」
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